三夜目:ヘルハウンド(時々ドラゴン) 中編

「…なるほど、大体事情はわかった」

なみなみと注がれたビールを飲み干し、ローレットは空になったジョッキを置いた。普段から強い酒を水のように飲む彼女にとって、この程度は口を湿らせる程度にしかならないらしい。

場所は変わって、銀雪館から反対側の通りに位置するローレットお勧めの大衆食堂。夜も遅い時刻とあって、宿屋に近いこの店は多くの観光客や行商人達で溢れかえっており、かなりの喧騒に包まれていた。

そんな店内の隅っこに、マルク達の姿はあった。マルク、ローレット、クラウディア夫妻、グレアと五人でテーブルを囲み、美味な料理と酒を楽しみながら、昔話に華を咲かせているところであった。

しかし、約二名ほど、どことなく殺伐とした雰囲気も否めないが。

「つまり……あれだな。お前が一時期マルクを育てていたが、生活苦のあまり、知り合いだったクラウディアのところに泣き叫ぶマルクを無理矢理連れていき、身体で稼がせていたと……」

「何の話を聞いてたテメェッ!!」

グレアの手から鋭く放たれたナイフを、ローレットは人差し指と中指で挟み楽々とキャッチ。くるりと手にしたナイフの向きを変え、手元の皿に盛られた肉に突き刺した。

彼らが話していたのは、マルクがクラウディアの元へやって来ることになった経緯。親を亡くし、一人で暮らしていたマルクをグレアが見つけ、二年間ほど一緒に暮らした後、クラウディアに預けたのだという。

預けた理由は、グレアの生業にある。彼女は現在こそ大きな盗賊団の頭領となっているものの、マルクと出会った頃には一人でしがない野盗をしていた。当時幼いマルクを育てるにはあまりに環境が悪いと、やむを得ずクラウディアに預けたということであった。

彼らが夕方頃から食事を始めて、既に外は真っ暗闇。酒も進みに進み、良い感じにーーーいや、悪い感じに酒が回ってきた頃であった。

「おや、違ったか。確か……ああ、そうだ。お前の世話にほとほと疲れ果てたマルクが、共に暮らすよりはマシだと男娼の世界へと足を踏み入れるためにクラウディアを訪ねて……」

「テメェ……いいかげんにしねぇとマジで切り刻むぞ……!」

「グレア、落ち着けって。面白がってからかってるだけなんだよ、あいつは」

「ローレットさんも、あんまり変なこと言わないで下さい。グレアさんは僕の恩人なんですから」

ギチギチと爪と牙を鳴らして威嚇するグレアをアークが落ち着かせている間に、マルクはローレットをやや厳しめの口調で諌めた。

やはり、自分が信頼している人物の一人を貶されては、少なからず好意を寄せているローレットであっても気分が悪いというものである。

だが、にもかかわらずローレットの態度は平然としたもの。それどころか、どこか満足げな様子でナイフに突き刺した肉に食らい付いた。

「はぐ……んっ、なぁに、わかっている。マルクの恩人であれば、その妻たる私の恩人も同然だ。感謝しているに決まっている」

「その割には態度に出てねぇな……ってか、おい。なんか聞き捨てならねぇ台詞が……ん?おい、マルク。お前全然食ってねぇじゃねぇか。ほら、切り分けてやるからどんどん食えよ。今日は全部、この女の奢りなんだからよ」

「だ、大丈夫ですって。もう僕お腹いっぱいですし」

首を振るマルクだが、それでもグレアはお構い無し。いきなり彼の腕を掴み、その感触から腕の太さを確かめ、さらに腹回りを撫で回した。

「ほら!なんだこのほっそい腕!ガリガリじゃねぇか!いいから食えって!お前背もちっこいんだから、もっと食わねぇと!」

食べやすいよう一口サイズに切り分けては次々とマルクの皿に盛られていく。たちまち山となるが、満腹というのは本当らしい。げんなりとマルクは溜め息をつきながら、恩人の好意を無下には出来ぬとゆっくり肉を口に運び始めた。

そんなこんなで夜は更けていき、他の客達もポツポツと席を立ち始める。やや空席が目立ち始めた頃、マルク達のテーブルにもちょっとした変化が訪れていた。

「んっ……ぅ……」

そろそろ、少年には辛い時間帯であったようだ。酒の席が始まってから舐めるように果実酒を味わっていたマルクの瞳が虚ろになり、こくりこくりと身体が船を漕ぎ始めた。

「あー……そろそろ、マルクは連れて帰るか。俺が店まで送ってくから、お前らはまだ飲んでてもいいぞ。ほらマルク、起きろ。帰るぞ」

「ん、んんぅ……はぁい……」

寝惚け眼を擦りながら、マルクはアークに抱えられて椅子から立ち上がった。

この時間帯、酔っ払った少年一人でこの街の通りを歩くのは自殺行為に近い。店を出て三歩も歩く内に拐われて、気付いたらベッドの上で誰かに乗られてました、というのが日常茶飯事なのが魔王城城下町である。

「む……ならば私が送っていこう。元勇者のお前だけで
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