困った。非常に困った。
冒頭から突然だが、マルクは現在突き付けられている問題を前に苦悩していた。
それはーーー
「お願いよマルクちゃん!お姉ちゃんと一緒に来て!そして一緒に暮らしましょうよ!」
目の前には、両手を握りしめて涙目で懇願するサキュバスのお客様。羊のような巻き角が可愛らしく、それでいてピンク色のルージュが女性の艶かしさをさらに際立たせる。
彼女は、魔王城で働く衛兵のエルヴィ。マルクを目当てにこれまで何度も来店している数多くの常連さんの一人である。
そしてマルクは、そんな彼女から何度目かもわからない求婚を受けていた。この部屋は特別な魔術を施され、サキュバスお得意の魅了魔法は使えない。そうなると、あとの女性の武器は涙くらいしかないわけで。
「お姉ちゃんとのセックス、気持ちよかったでしょ?マルクちゃん、泣きながら何度も気持ちいいって言ってくれたじゃない!ほら、マルクちゃん、お姉ちゃんの大きなおっぱい大好きよね!?私と夫婦になってくれたら、毎日でも挟んであげるから!好きにさせてあげるからぁああーーーっ!」
「こ、困ります、エルヴィさん。ほら、一緒にお店の前まで行ってあげますから、だから早く服をーーー」
「イヤイヤ!結婚してくれなきゃいやーーーっ!!」
普段は悪い人ではないのだが、ベッドの上に座り込んで駄々をこねる姿はまるで子供のよう。心優しいマルクの性格上、無理なお願いとあっても彼女の好意を無下にすることなど出来なかった。
とはいえ、このまま駄々をこねられてばかりでもいられない。どこぞの王子様風な容姿のマルクを目当てに、あとからあとから次のお客はやってくる。
すっかり困り果てたマルクだったが、急に静かになるエルヴィ。顔を俯かせたまま、ポツリと何かを呟いた。
「ーーー……して」
「は、はい……?」
「次に来たとき、私にお尻の処女くれるって約束して!」
「い、いえ、その……そこは、もう別のお客様に……」
「じゃあ二番目でもいいから!」
「二番目ももう……えっと……ご、五百番目くらいでよろしければ……」
「それならイヤ!結婚してくれるまで帰らない!」
ああ、どうすればいいのやら。
勇者の襲撃でもなければ、彼女に出会いの機会は滅多にない。そんな彼女達のために、この男娼館があるわけなのだが、マルクに身請けされるつもりは毛頭無くーーー
その時、マルクに電撃走る。おもむろに、彼女の耳元に口を寄せた。
「…エルヴィさんだけに、特別にお話しします。実は、最近になって元勇者の子が入ったんですよ」
「え……っ!?そ、それで?」
勇者を快楽堕ちさせるプレイが大好物の彼女にとってしてみれば、耳寄りな情報だろう。食い付き方が半端なく、既に口元からは涎が伸びている。
「その子、まだあまり他のお客さんにも知られてなくて、全然そういうこと知らないんです。だから、まだまだ仕込み甲斐がありますよ。あと……これ、どうぞ。お店の割引券です」
こそっと、エルヴィの手に小さなチケットを握らせる。街でも人気店とだけあって、男娼を買う金額は決して安いものではない。誰彼渡していいものではないが、多くの常連を抱えるマルクにはその権限が与えられていた。
ジッと食い入るように割引券を凝視するエルヴィに、マルクはさらに追い討ちを掛けた。
「それを使えば、普段の半額でお店を利用できます。あと、僕からエルヴィさんのことも話しておきますよ。そうすれば、他の予約があっても優先的にエルヴィさんをーーー」
「わかったわマルクちゃん!お姉ちゃん、今日はもう諦める!さぁ、次のお給料日まで頑張るわよ!」
「ふふっ……またの御利用、お待ちしています」
いつの間にか服を着込んでいたエルヴィの腕に自身の腕を絡ませ、バスローブ姿のままマルクは店の玄関まで彼女を見送る。エルヴィが鼻歌混じりにスキップをしながら帰る姿を見届けて部屋に戻ろうとしたところ、後ろから突然声を掛けられた。
「マルク、ちょっといいか?」
「はい?」
声の主は、アークであった。これから部屋の掃除に向かうのか、両手にバケツとモップを抱えている。
「どうされたんですか?もしかして、僕に何か用事でも?」
「いや、そうじゃねぇんだ。実はな……ほら、これが店の前に置いてあったんだ」
そう言って、アークが取り出したのは黄色い花弁の一輪の花。この辺りではあまり見ない何の変鉄もないただの花だが、これが届けられた意味を、マルクはすぐに察した。
それはどうやらアークも同じだったようで、困ったような苦笑いを浮かべている。
「お前の一番のお得意さん、久々に来るみたいだな。朝からクラウディアが張り切ってた理由がようやくわかったぜ」
「ええ、そうみたいですね。あっ、アークさん。今日の夜の予
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