私とブラシと犬と。

「お、終わった、ぞ。」
「おーう。」
「ほら、早く見せてみろ…」

ソワソワとした様子で月が台所から戻ってきた。
相変わらず尻尾は横にふりふりと動いている。
あれ掴んだら怒るんだよなぁ…

まぁその尻尾もブラッシングしますけどねぇ?

「お前、最近毛が傷んできたって言ってたろ?」
「ん、あぁ、一緒にお風呂に入った時にだな。」
「記憶を改竄しようとするな、そんな事実はない!」
「はん、女の下ネタに動揺するようなチキンボーイだから未だに女ができぬのだ、もう少し耐性を付けろ。」
「ぅぐっ!?」

心にグサッとシャープペンシルの芯が刺さった。
俺は一回ノックする部分と芯が出てる部分を間違えて「カチッ」とやり、キレーに「ぶすっ☆」と行ったことがある。

いや、あれ地味にすごくいてぇよ?
例えるならタンスの角に小指クラッシュした時のような。

「う、うるさいな!お、俺だって作ろうと思えば一人や二人直ぐに!!」

つい熱くなってしまう。

「無理だな。」

そしてピシャリと放たれたその一言ですーっと冷めていった。

「…そんな冷たい態度取るとお前のこと冷えピタシートって呼ぶぞ。」
「なっ、なんだその不名誉極まりない名前は!」
「お前冷えピタシート馬鹿にすんのか!?」
「す、スースーして苦手なのだ!」
「…ほう?」
「…い、いいから、プレゼントを見せてみろ!さぁ!さぁ!!」
「ぁー、わかったわかった…」

今度冷えピタシート買ってきてやろう。

「ほれ、ジャーン。」
「…ブラシ、か?」
「…あら?あんまり反応宜しくない感じ?」
「いや、嬉しい、が、その…もっと…結婚指輪のような…モノをだな…期待していたというか…」
「んぁ?聞こえねぇぞ?」
「ふんっ、ほら、貰ってやる、よこせ!」
「え、あげないよ?」
「…は?くれないのか?」
「おう、俺が櫛かけてやる。」
「……は?」

寂しそうな「は?」の次に驚きの「は?」が来た。
なんだこいつ表情豊かだな、次はどんな「は?」が来るんだろう。
威圧的なやつは勘弁。

「な、な、な、何、何を言っている!?」
「だから、俺が櫛かけてやるって。ほれ、こっち来い。」
「櫛くらい自分でかけられる!バカを言うな!」
「いやいや、俺の感謝の気持ちを受け取ってもらいたいんだ、自分でかけちゃあ意味が無いだろ?」
「それは、そうかもしれんが…いや、しかし、ダメだ!絶対にダメだ!」

こ の 程 度 で引 か ぬ わ

「ほら、意地張ってないで、優しくしてやるから、な?」

櫛をかける仕草を目の前でこれでもかと見せ付ける。

「ぅ、ぅぅぅぅぅ」
「ついでに沢山撫でてやるぞ?」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

段々目が回ってきた様子。
ワーウルフの誇りとわんことしての本能がせめぎあってんだろうなぁ。(適当)

「…っ!」
「おっ、…お?」
「か、かけるなら、早くしろ……」

月は俺に背を向けて正座した。
いや…まぁ…そりゃ、ブラッシングだし…普通はその体制で行うんだけど…。

可愛い女の子は弄りたくなるよね?(賛同求ム)

「いや、俺に抱きつけ。」
「…はっ、はぁ!?//」

月はぐるりと首を回し俺の方を向いた。
大丈夫?それ首折れてない?

「だから、俺に抱きつけ。その方がかけやすいから。」
「う、うそつけ!!髪を直にお前に向けた方がかけやすいに決まっているだろう!!//」
「何顔赤くしてんだよ、ほら、おいでな。」
「あ、赤くなどしていないっ!!//」

うーん、流石に抱き着いてもらうのは望みすぎだったかなぁ…

とでも言うと思ったかバカめ!
俺には秘策があるのだ!!

「…そっか、そうだよな、月だってもう大人だもんな、俺に抱きつくのなんて嫌だよな…」
「!?」

そう。泣き落としである。
強情な女の子もイチコロにできる。そう。泣き落としならね。

「い、いや、決してそんなことは…」
「悪かったよ、櫛はここに置いとくから、自分で使ってくれ」
「えっ、あ、そ、そんなっ」
「…」

ふへへ、動揺しておる、バカめ、貴様は俺の手の内だぜ。
もうここまで来れば袋の鼠…もとい袋の狼である、煮ることも焼くこともできる。

ここで俺が月の方を振り向けば、確実に俺の胸に飛び込んでくる。絶対に、絶対にだ。

「ここに置いといたぞ…っ、っとと」
「…ほ、ほら…望み通り…くっついてやったぞ…さっさとしろ…このマヌケ…/」

計 画 通 り 。

「いい子だ…」
「…凄く…ハメられた気がするのだが…/」
「なんのことかにゃー?」
「早くしろっ/」
「まぁ、でも、座ろうぜ?」
「…ん…」

俺はあぐらをかき、その上に月が座る感じだ。
対面で。

「…ふー…ふー…っ/」
「…つ、月さん?鼻息荒くない?」
「う、るさい…柔軟剤がいい匂いなのだ…っ/」


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