「お兄ちゃん、私と勝負しよう。」
「は?」
「負けた方が何か言うことを聞こう。」
「は??」
「異論は認めないから。」
「???」
ーーーー
何番煎じだよ。
負けた方がいう事聞くとかもうそれ魔物相手にはアウトじゃねーか。
某ひげおやじのアレスとか某魔獣学校のシューヤとかで見たぞ、この状況。ふざけんな。
とりあえず本来は阻止したい所なのだが、正直相手がアヤなので困惑中なわけで。
あれ、アヤってこんな子だっけ?
…あぁ、分かったぞ、別にやましい事を頼みたいわけじゃないんだ。
きっと何か買って欲しいモノとかがあって、反抗期のせいでおねだりできないからこんなひねくれた方法をとってしまったんだ。
ふむ、なるほどなぁ、それならアヤらしいや。
というとなんとかして負けてやらないとな。
「うん、じゃあ、何で勝負しようか。」
「…や、やけにすんなり聞いてくれるのね。」
「はっはっは、お前の兄貴はなんでもお見通しだからな!」
「!?」
やっぱり図星だったらしい、俺におねだりの魂胆を見抜かれて焦って顔を真っ赤にしてるぜ。
お兄ちゃんの洞察力をなめるなよ、黒田鉄山の抜刀を見抜けるんだぜ。
「(うううう嘘つまりお兄ちゃんはキスして欲しいってことがわかってるわけでつまりそれは私のこの好意が知れたわけでさらに好意による行為が引き起す惨状まで見抜いてるかもしれないわけでそうなるとなんでお兄ちゃんがこの勝負に乗ったのかが疑問点にってつまりお兄ちゃんは私とキスをしたい!?キスしたいってことなの!?お兄ちゃんがすんなり受け入れた理由はそれしか考えられないよね!?お兄ちゃん!?私もお兄ちゃんの側に居れる!?)」
「…あ、アヤ?するなら早くしようぜ?」
「すっ、スるとか!!へへへ変なこと言わないでくれる!?」
「…えっと、勝負しないの?」
「勝負!?しょっ…あ、勝負…そうね…勝負の話だったわ…」
てんぱってるなぁ。
ピザの生地を伸ばす技法、テンパリングは絶対彼女に与えたい動詞だよなぁ。
ピザ食べたくなってきたな。
太るけど。
俺が太ってもこいつら好いてくれんのかな。
「さぁ、何で勝負する?」
「……考えてないのよね。」
しめた。
ここで俺が力を入れつつ負けれる題材を提供すればいいのだ。
「じゃあ家事も兼ねて皿洗いでどうだ?」
「…皿洗いでどうやって勝負するのよ。」
「うん?五分間で何枚洗えたかとかさ。」
「あぁ、うん、それなら。」
計画通りだ。
いやぁ、我ながら今日の自分は冴えてるなぁ。
これで鈍感系とか言われなくて済むなぁ。
ーーーー
「さて、じゃあ勝負は3分間で何枚洗えるかだ。」
「…そんなにお皿ないじゃない。」
「その代わり油とかがこびりついてるコンロとかを用意したからな、綺麗に洗い終えてないとカウントしないぜ?」
「む…じゃあ数より質の勝負なわけね?」
お皿洗い、と言う名目の汚れもの洗いなわけで。
お皿の他に換気扇やコンロ、挙句中華フライパン等多種多様な汚れものが揃っている。
これらは正直めんどくさくて後回ししてた洗いものである。
こんな時しかやる気起きないしね、仕方ないね。
「俺は毎日やってるからな、ハンデとしてタイマーは俺が押してやる。」
「ハンデなんか要らないって言いたいところだけど…まぁ、正統な勝負にするには仕方ないわね。」
「そうだ、じゃあ俺がタイマーを押したらスタートだ。」
レディ…
「ゴー!」
ピッ、という無機質な音がキッチンに響きわたる。
と同時にアヤがスポンジに洗剤を付けて一気に汚れた食器に手を伸ばす。
さて、俺もぼちぼちやりますか。
ーーーー
一分半経過。
残っていた食器類は全て片付いてしまった。
あと予想外の事が起こった。
正直繊細な物の勝負なら手を抜けば勝てると思っていたのだが、こびりついた汚れを取る作業は繊細のせの文字もないほどの力仕事になりかわってしまったのだ。
「うぐぐ…」
「………」
案の定唸り声に近いような声を上げて汚れと格闘しているアヤ。
このままだと勝ってしまう。
それだけは避けねば、このアヤが遠まわしとはいえおねだりしたのだ、なんとしてでも要望に答えてやりたい。
しょうがない、コツを教えよう。
「アヤ、お酢とレモン汁を使え。」
「えっ?」
「汚れが酸性と中和して落ちやすくなるんだ。」
「へぇ…」
またハンデは要らぬと言われるかとも思ったがどうやら好奇心が勝ったようで特に突っ込んでこなかった。
良かった、後は…
「付けたか?」
「ん、かけてみた。」
「じゃあこうやって…」
「ちょ、ちょっと、おに、お兄ちゃん!?」
二人羽織の体制である。
やっぱり一瞬とはいえ自分以外の力が加わったのは勝負として嫌
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