災難

「よし、とりあえずそこに正座しろ。」

「ごめんなさい、足がないのでできません。」

俺の周りをふよふよと飛び回る幽霊、もとい妹。

血の繋がっている、妹。

しっかりした性格で、敬語を使う妹。

「じゃあ飛んだままでいい、とりあえず三文字で現状を教えてくれ。」

「やばい。」

「素敵なお言葉ありがとう。」

やばいらしい。
どういうタイプのやばいだろうか、尿意とかだったらいいな。

「私ことサヤちゃんなんですけど、憑依しないとどうやら死んじゃうらしいんですよ。」

「そりゃやばいな。」

幽霊なのに死ぬのかよ、なんだよそれ、幽霊は二度死ぬってか。
バカな、成仏しろ成仏。

「厳密には死にはしませんけど、ものは触れないし何も食べれないし人には見つけてもらえないしで不便なんですよね。」

「なんで俺には見えてんだよ。」

「そりゃ、一回死んだからですよ。」

どうやらあれは夢じゃなかったらしい。
一回死んだって、そんなサラッと言われても。
この世の中は残機制だったのか、初めて知ったぞ。

「わたしが頼んだんですよねー、一回レンにぃをやっちゃってくださいっ、て。」

「なんつーこと頼んでんだお前ぇ!?」

どうやら最愛の家族に殺されたらしい。
ほんと何考えてんだコイツ、敵か、敵なのか、ラスボスか。

「いえいえ、別に憎いからとかではなくですね、その。」

もじもじ、というか、ぼそぼそ、というか、言いにくそうに体を動かしながら言葉を紡いでいくサヤ。

「…レンにぃなら、助けてくれるかな、と、思いまして。」

「…憑依しないと死ぬって言ってたな。」

この場合、やっぱり成仏か。
成仏ね、そりゃ、した方がいいんだろうけど。

「いいよ、俺に取り憑け。」

再会できた妹をまた突き放すなんて、できっこなかった。

「…いいんですか?一日中つきまといますよ?」

「かまわん。」

「ちょっかい、だしますよ?」

「むしろこれまで構えなかった分構ってやる。」

「性も奪いますよ?」

「ごめんそれは自重して。」

しっかりきっかり魔物娘の性質をもっていた。
ここに限ってはしっかりしててほしくなかったな。

「頑張ってギリギリまで抑えてくれるならいいぞ。」

「…が、頑張りますよ、えぇ、頑張ります。」

ぐぬぬ。
という唸ったような顔が見える。

「ほかの人間じゃダメなのか?」

「まぁ、いいんですけど、でもほら、やっぱりずっと一緒に居るなら好きな人がいいと思いません?」

「お前そんなキャラだったっけ?」

「こんなキャラでしたよ、生前から、ずっと。

お兄ちゃんだけど愛さえあれば問題ないよねってキャラでした。」

「そんなキャラ崩壊してしまえ!」

その重度のブラコンしか使えないセリフを使うな!お前までブラコンみたいじゃねぇか!

「とりあえず、はやく取り憑け。」

「はいっ、ありがとうございますっ。」

すっ、と俺の後ろに周り、触れないと言っていた俺の肩にぽん、と手を置いた。

「完了です!」

「…これだけ?」

「これだけですよ?」

もっとこう、体の中に入ってきてみたいなのを想像していた。

大ハズレだったらしい、モヤっとボールかもん。

「これで、成仏しなくてすむんだな?」

「はい、多分。」

またふよふよと俺の前へと戻ってきながらそういう彼女。

「じゃあ、とりあえず、俺を家に返してくれ。」

「あぁ、はい、おやすいごようです。」

そう言ってにひっ、と俺に笑いかけたが、しかしすぐに

「あ、でも、その、レンにぃを殺した人にお礼を言ってからでもいいでしょうか。」

「……お、おう。」

複雑な心境だった。

ーーーー

「ところでそのレンにぃっていうのやめろ、練乳みたいじゃないか。」

「え、いいじゃないですか、練乳。私は好きですねえ、練乳。」

「お前の好みとかじゃなくだな…」

「じゃあ、敬語の喋り方的に定番のお兄様とかですかね、お兄様!」

「まぁ、それなら。」

憑依した彼女はどうやら俺から遠く離れることが出来ないらしく、一緒に向かっている間に俺の呼び方が決まった。

正直自分を殺したやつと顔を合わせるってだけで寒気がするのだが、実の妹の前、そんなやわな所は見せられない。

いいかっこしいのだ、ほっとけ。

「そこです、その右の扉。」

ついたのは廃墟だった。
薄汚れた表札には、殺し屋、とだけ無骨に掘られていた。

今の世の中殺し屋って、おい。
なにやってんだ政府は、さっさと捕まえろ。

「…誰か、居ますか。」

のっくしてもしもーし。

そう声をかけると、直ぐに扉は開いた。

そして出迎えてくれたのはあの、長い剣を担いだ男だった。

ーーーー

「いやぁ、良かった良かった、無事に会えたみたいだね。」

「無事っつーか
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