二日目

「つってもよ。」

出会いを求めようにもあたしが道なんか歩いたらザワザワしちまうだろうし、なんつーか落ち着いて考えられる場所っつーと山奥くらいしかなかった。

「あたしは仕事こなしてただけなんだけどなぁ。」

愚痴を零しつつ、そこら辺に沢山生えている木の、その一本にもたれかかる。
別に神聖なオーラなんてもんはねーし、神々しく光が差し込んでるなんてこともなかったが、少なくとも、あたしにはそこが居場所のような気がして落ち着いた。

「どうすっかなぁ…」

足を伸ばし、片足の上にもう一方を乗せる。
考える人、って像があるが、あんなポーズで考えてたら肩こって考え事どころじゃねーぜ、あれ。

このまま逃げちまうことも考えた。
アイツのセリフから至極単純に考えれば、逃げれば死なずには済む。
まぁ生きたとてしてーこともねーし、強いていうならもうちょい美味い飯食いたかったな、ってことくらいか。

こうやって久しぶりに本気で悩んでっと、あたしはどうにもものすげぇ仕事人だったみてーだな、と、再確認することになった。

いやそりゃ仕事大好き!!みたいな自覚はあったが、こう、剥奪されたら剥奪されたでこんなにも大きな虚無感を受けることになろうとは、思ってなかったわけで。

仕事、ねぇ。

そーいう役所上、殺意を探知するのはすげぇ得意なわけで。

例えば、こんなふうに。

「おいおい、1人のとこを襲うたぁ、新手の痴漢かねぇ。」

「あんたに痴漢しようもんなら俺の命はねぇな。」

「はっ、違いねぇや。」

木陰に腰掛けてた時間はどのくらいだろうか、考えてるとどうしても時間の立ちが早く感じる。

「まぁ、お前は俺を殺せねぇよ。」

「はぁ?おいおい、舐められたもんだな、そんなひょろっちい体で何ができるって…」

「いや、何もできねーよ、俺はふっつーな人間だ。ふっつーな人間だから、お前は殺せない。」

「…わけわかんねぇよ。」

ふっつーな人間なら幾千と葬ったっての、いや、幾千は盛ったかな…
やった数なんて一々数えてねーよ、数えようとも思わねぇ。
脳がパンクしちまうっての。

あたしは数学は苦手だね。
というか数字が苦手。微分積分ってなんだよ。

そんな事を考えていると奴はあたしに向かって突進をしてきた。

突進といっても捨て身じゃなくて、ちゃんと肘を使っての奴である。
自衛隊とか警察とかのタックルだな、盾無しバージョン。

「あんた、ここまでやられても俺に殺意が湧かねーだろ。」

ギリギリと競り合う。
普段ならもう顔面に一発振り抜いてる所だが。

あたしの体は耐えるだけで、相手に危害を加えようという気が少しも起きなかった。

何だ、こんなん一回も体験したことねーぞ。

「当たり前なんだよ、魔物娘が人間を殺せるわけがねぇ。お前らは慈愛の塊みてーなもんなんだからさ。」

「…どういうことだってのッ」

どうしても反撃に出れなかったあたしは後ろへと飛んだ。
地面に落ちていたであろう小枝がパキリと小気味いい音を立てて折れる。

「まだわかんねーかよ、バカなんじゃねーのお前。」

「さっき体感したよ、あたしはバカらしい。」

あたしの心は寛容だ、こんな挑発じゃあピクリともこねー。

「お前が殺してたのは人間じゃねーっつってんだよ。」

「…………………………は?」

あたしは今史上最高にぽっかーんとしてた気がする。

人間じゃねぇ?いやいや、あれは明らかに人間だろうが、見かけ全て人間だったっての。

もう完璧に人間のそれだったって。

「見かけはな。」

見かけは?

「見かけは。あいつらはいわゆるクローンってやつだ。政府のおエライさんが作り出した人工人間ってやつだな。」

「そんなん…」

「見かけは完璧だったわけだ。次は政府は中身を求めた。」

「…率直に言ってくれよ、あたしは馬鹿だからな、複雑に言われると分かんねーんだ。」

あたしは割とバカっての気にしてんのかもしんねー。
そしたらだっせぇな。

「つまりはなぁ、お前が殺せないような、魔物娘が完全に人間と判断するようなクローンを作り出すことができれば、それがクローン最高傑作ってわけだ。」

「判断基準が殺しって、どうなんだよ。」

「だって分かり易いからな、殺意が沸かせられなければ、それは人間だ。」

無茶苦茶じゃねーか、そんなんまでして作る意味がわからねー。

「そんなん戦争のために決まってんじゃねぇかよ。あぁ、誤解してるかもしんねーから一応言っとくけれどよ、お前、街中に出ても全然平気なんだぜ。」

「…えっ、は?」

ぽっかーんpart2

「そんな何百と人が…いや人じゃねーんだけれど、何百と死んでんのが表沙汰になるわけもねぇ。表沙汰になったとてクローン作ってるなんて知られたら世界が揺るぎかねねぇ。

よっ
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