1日目

ーー1ーー

「あーあー、暇ったりゃありゃしねぇ。」

あたしは天へ手を突き出し、夜空を照らす妖艶な月を掴むように、グッと拳を握り締めた。

いや、拳を握り締める、というのは語弊があるか、言い直そう、手を握った。

いや、うーん、これも違うか、あたしは突き出した手のひらをグーの手にした。

うん、これが一番しっくりくる。

語り部を勤める上で大変なのは、現状をいかに正確に、見聞きしている人物へ伝えられるか、ということだとあたしは思う。

もっとも、語り部になっちまったから、という理由だけであって、そこにポリシーやプライドなんてもんはこれっぽっちも存在しないのだけれど。

いや、これも違うか、あたしは全ての仕事に誇りを持つように決めていたっけな。

そう、誇りを持っていた。

あたしは魔物娘の概念の中で避難を轟轟と受けるであろう、殺し屋っつー仕事をしてた。

轟轟、って、なんな炎が燃え盛る効果音みてーで、なんか好きなんだよな。
使える機会があれば使っていきてー表現ナンバー1だ。
もっとも、これも勿論適当なのだけれど。

あぁ、話がそれちまったな、あたしはどうにも脱線しちまう癖があるみてーだ。
駅員にはなれねーな、なったとてあんな複雑そうなマシンを動かせる気もしねーが。

そんでまぁ、話の本筋に戻ると、想像通り、いや、むしろ想像非通りの奴のが多いか、殺害対象は人間だった。

人間、一般市民。

そう、一般市民。
あたしは決して教団の兵士だとかを殺ってた訳じゃあねぇ。

ヤるなら鍛えてる兵士の方がしがいがありそうなんだけれどな。

だー、だから脱線すんなって、あたし。
仕事に誇りを持て、やり切れ。

よし。

まぁ、一般市民ってのも語弊があって、正確には一般市民に扮する悪ィ奴ら、ってことになんな。

何が悪いかは分かんねー、あたしが殺したのはどれも善良そうだったしな。

仕事なのになんで知らねーのかっていわれても、いわゆる上、って奴の依頼だから仕方がねぇんだな、これが。

そんな何十何百と完璧に葬ったあたしは、名も売れて、売り上げも上々だったわけだ。

殺しっつっても、あたしは忍者みてーな仕事をしてるわけでよ、一組織殺すとかになるとそれはそれは時間がかかっちまうわけだな。

だから、気づかなかった。

自分の仕事が圧倒的に落ち込んでいることに、気づかなかった。

「つまり、貴方は世界からタブーとして認識された訳ですよ、クロエ。」

唯一の友達、っつーか、知り合い、っつーか、顔見知り、っつーか、そんななんつーかビッミョーな距離感の奴が、あたしにそんな事を言った。

「タブー?んだそりゃ、亜空の使者のラスボスか?」

「それに関しては存じ上げませんが、まぁ、端的に言えば、貴方は強くなりすぎたのですよ。
強くなりすぎて、世界から認められすぎて、世界から外された。」

世界から認められすぎて外された?
んだそりゃ、認められたらもっと崇められるはずだろうが。

「えぇ、崇められているんですよ、貴方は。
高位になったんです。」

「あたしゃ高位よりも好意の方が欲しいね。」

「貴方のしでかした行為の後に残るのが好意な訳がないでしょう。」

こいつ、被せてきやがった。
まぁそこに突っ込んでも惨めになるだけなのでスルーしておく。

あたしは寛容だ、器の大きな人間だ。

「胸は小さいですけれど。」

…器の、大きな人間だ。

「まぁ、ですから、世界が貴方を使う事を禁じ手としたんですよ。強すぎるが故、貴方を使うと必ず勝ってしまうが故です。」

「遊戯王でいう罠カード、死のデッキ破壊ウイルスみてーなもんか?」

「ポケモンでいう、ヌケニンに気合のハチマキ、みたいなものです。」

まただ、またこいつはあたしよりも上手な切り返しをしてきやがった。

頭の回転がはえーんだろうか、頭の回転を時速で表してみてーもんだ。

あたしはどんくらいだろう、170`くらいはあって欲しいな、頭は良い方だと自負してるしよ。

「もう一度だけ、端的にいいましょうか。」

彼女は息を整えてから、真っ直ぐな目線であたしを見つめ、こう言った。

「貴方が死ねば、世界のバランスは元に戻るのです。」

ーー2ーー

「は?いや、ぜってーそんな話じゃなかったろ、おいおい。」

「いや、そんな話でしたよ、最初から。」

なんだ?あたしがバカなだけなのか?頭の時速はもしかしたらもっとおっせーのかもしれねぇな。

「あたしが思ってんのは、てめぇは強くなりすぎたから世界から居ないのと同じになったんだぜ、っていう…」

「その通りですよ、居ないのと同じ。
つまり、居なくなったとて変わりません。」

「だったら、いなくならなくったっていいじゃねぇかよ。」

「それでは困るのです。貴方は存在だけで周囲を怖
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