お風呂事情。

あー、皆さんはスライム、という魔物をご存知だろうか。
RPG物を主とし、色々なゲームに出てくる、青くてヌルヌルしている、ジェル状の…アレだ。

風も何も吹いていないのに水溜まりがぷるぷると動いたり。
地が乾いているわけでもないのに地面に水分を零したりすると急激に吸収されたり等…。

おそろしくも愛すべき魔物なのだ。

さて、ここにいる彼女も見事なまでのスライムだった。
自らがいつかクイーンスライムやダークスライムになれると信じ、座右の銘は…

「なるようになるさ!」

このように、想像するだけでも可愛い魔物なのである…。



さて、今回このスライムの彼女が挑戦しているのは、人のようにお風呂につかってみたい、という事である。

スライムという魔物は人の体液や、水分を栄養源としているため、お風呂につかるとどうしても水分と融合し、湯船に溶けていってしまう。

そんな中でなんとか浸かることができないものかと四苦八苦しているのだ。

その四苦八苦を観察した映像を…お送りしよう。

『挑戦1
普通に入ってみる』

「今日こそは人のようにお風呂に浸かってみせるぞー!!」

ガラガラと戸をあけ湯船へと向かう彼女。
もうすでに床に富んでいる水滴を吸収してしまっているが…本人は気付いていない。

良く言えば天然、悪く言えばアホの子なのだ。

「お風呂に入る前は体を洗うのが礼儀だよね!」

シャワーを浴びる。
あー、言わなくてもわかると思うが案の定彼女の体にシャワーから出る水分は溶け込み…

「…ふにゃぁ」

体積を制御できず溶けてしまった。

もうお風呂に入る以前の問題である。

『結果』
論外

『挑戦2』
湯船に辿り着く事を目標とする

その後もなんどか彼女はお風呂に入ろうとしたのだが…アホの子の暴走。
手洗い等をし失敗。
床に転んで失敗。
汚い箇所を見つけ掃除しようとして失敗…などなど。

何か一つをやろうとすると直ぐに目的が上書きされてしまうのである。
旧ゲームボーイ並の記憶料である。
ここまでよく生きられたと尊敬すらする。

魔物娘でなければ恐らく死んでいると思われる。

さぁ、そんな彼女が次に目標としたのが…

「今度こそお湯につかるよ!」

風呂まで辿り着く…という事である。

この1メートル四方タイル三枚程度の距離の中を十回程迷走しているのだから…もはや才能である。

「…お風呂に入る…お風呂に入る…お風呂に入る…」

それはまるで暗証番号を覚えようとしている人間の様で…
人間っぽい事をした、という点ではこれで合格でいい気もしてしまう。

「お風呂に入る…絶対にお風呂に入るんだもん…」

これは大丈夫であろう。
結果は見えている。

「お風呂に……なんか寒いなぁ、あっ、換気扇つけっぱだ!消さなきゃ!」

無理だった。

『結果』
バカ。

『挑戦3』
とりあえずほんと湯船に入れ。

湯船に入れ。
そろそろ入ってくれ。

企画的にグダってしまう。

もう編集で八十%カット程している。

お願いだ。

思いの外天然過ぎた彼女の観察を続けようと思う。

「……………」

ガラガラ、と扉を開けて入るは24度目。
そろそろ彼女も滅入ってきているらしい。

「…お風呂…………お風呂に浸かる…………………」

本来風呂に浸かる必要性はスライムにはないのが原因かは分からないが、良くもまぁここまで外してきていると思う。

「…お風呂っ!」

ガッと浴槽の淵を掴む。
まぁスライムなのでガッと掴む風でもプルンと言った感じなのだが。

「…えへへぇ、やっと辿りついたっ」

にへらりと湯船を見て顔をほころばせる彼女。
今度こそお風呂へは辿り着けたようだ。

いい最終回だった。

これにてお風呂に辿り着く物語完。


さぁ、第二シーズンである。
お風呂に入るシリーズ。

「まずは…足から…」

ゆっくりと湯船に足を入れる

「ふぁぁ…気持ちぃ……」

そしてその気持ち良さに理性は崩れ足からお湯を吸収してしまい、形を崩す。

なんでだよ。

『結果』
第一部完。

『挑戦4』
体を冷やして浸かってみる。

お風呂に入った気持ち良さで溶けてしまうのなら、その温度と掛け離れた状態にし、暖かいのを暑いと感じる程度まで体温…ジェル温を下げて入ってみてやろうという考えである。

彼女にしては考えた。
これなら体が温まるまでは湯船に形を保ったまま入ることが出来るかもしれない。

「あ゛ーーーーー」

扇風機に向かって声を発する彼女。
われわれは宇宙人だ、というアレである。

宇宙人と同じくらい魔物という存在がファンタジーなのてあるが…まぁ、気にしないでおこうか。

「うーん…これじゃああんまり冷えないなぁ…あ゛ーーーっ」

扇風機の風は弱く、あまり冷やす、という効果
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