「朝…かな。」
…決して清々しいとは言えない朝である。
「…お腹すいたな。」
キッチンを見やる。
「……食べてやろうかな…」
一眠りしたら大分落ち着いた。
彼女は僕の事を何も知らないのだ。
何も知らない癖に、というセリフをそのまんま使ってしまいそうになったのだが、それがいかに自分勝手なセリフなのか。
寝て起きて気づいた。
何も知らないからこそ、相手は何かできないだろうかとしてくれているのかもしれないのだ。
多分。
「…お腹が空いたからであって…別に心を許したわけではないから…いいよね…」
吸い物に火をかける。
ゆっくりと湯気が立ち、鼻をくすぐる匂いが立ち込める。
暖かい。
何故だろう、凄く暖かい。
しっかりとあたたまったら器にすくう。
どうやらキノコと豆腐の吸い物らしい。
「…いただきます。」
よそった吸い物に箸を入れ、具を食べようとした時…
…呼び鈴がまた鳴った。
今度は誰だ…まさかあれだけいってまた来るはずもないだろうし…
「…はい…」
「…あっ、私の作った物の香りがします。ふふ、食べてくれてるんですね。」
…あれだけいっても来た。
「………帰ってもらっていいですか」
「あら…まだ冷たいんですね…ささ、上がらせてもらいますよっ」
そして軽々と僕をかわし中へと入っていってしまう
「ちょっ、何を勝手に…っ」
「お一人でさみしいのでしょう?」
「そんなことはっ」
「我慢しなくて良いのですよ…これからまーいにち来てあげますから。」
「………暇人なんですね。」
「ぅっ、そんな言い方は酷くありません?」
…寂しくなんてない、別に。
「…冷めてしまう前に飲ませてくださいよ」
「あっ、お気になさらず、どうぞどうぞお飲みになってください」
にこにこと笑いながらこちらを見ている彼女。
なにか企んでいるのだろうか。
「だ、大丈夫です!薬を持ったりなどはしていません!」
「…薬?」
「そりゃ…惚れ薬とかあれば…使いたいですけど…」
「……飲むのやめよう。」
「あああぅっ、嘘です!是非、是非!」
…どうしても信用しきることはできないが、お腹がすいているのも事実。
腹を括って飲んでみることにした。
「…美味しい。」
「ふふ、良かったです。」
予想以上に美味しかった。
空腹は最高のスパイスともいうが…どうなのだろうか。
とにもかくにも、僕は直ぐにその吸い物を飲み終えてしまった。
「これで胃袋はがっちり抑えましたね!」
「…何しに来たんですか、いったい」
「も、もうちょっと食いついてくれてもいいんじゃないですか……
えーっと、恩返しです。」
「恩返しはスープだけで充分です…」
「じゃあ貴方に惚れているからです。」
「じゃあってなんですかじゃあって」
「貴方様はここに一人で住んでおられるのですか?」
「……」
「…あ、き、聞いてはいけない事でしたかね…」
「…別に、大丈夫だ。」
話したって減るものじゃあない。
「…前までは、家族三人で暮らしていた。」
「……」
「…ここは昔反魔物域で、って、知ってますよね」
「…えぇ、知ってます。」
「それで、僕の両親が傷を負った魔物を治していたら、まだ反魔物の考えが抜けていない兵士に「魔物に汚染されている」なんて濡れぎくかけられて、撃ち殺されてしまったんですよ。」
「…あぁ。」
「…それが、一週間前のことです。」
「えっ。い、一週間っ?」
「一週間。」
「まだ一週間しかたっていないのですか?」
「もう一週間です。僕はもう一人に慣れましたから。」
「…他の大人達は何を。」
「みんなシカトでした。魔物、嫌いなんでしょうね。」
「…」
「…あなたは嫌いですか?魔物。」
「…えっ、と…嫌いでは…」
「そうですか、良かったです。」
「えっ…?」
「いえ、僕も魔物を助けた身ですから…貴方が魔物を嫌いならきっと出て行ってしまうだろうなって。」
「…寂しいのですか?」
「っ、そんなことは、ってニヤニヤしないでくださいよ!…恥ずかしい…」
「ふふ、私は魔物は好きですよ。だって…私が魔物ですもの。」
「…えっ」
それは衝撃的な言葉だった。
ずっと人間だとおもっていたのだから。
「ま、魔物…?」
「えぇ、ぬれおなご、という魔物です。」
「……」
「…怯えてしまいました?」
「…別に、大丈夫です。
貴方から敵意は感じられませんから。」
敵意は感じられない。
だから魔物だって関係ない。
「…ぬれおなごの、カナデと申します。」
「あっ、名前…」
「ふふ。なんやかんや言ってませんでしたからね。」
カナデと言った彼女はまた優しく微笑んだ。
「今日は帰りますね。話してくれてありがと
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