『富、名誉、名声、すべてを手に入れた男が解き放った言葉は世の男たちを海へと駆り立てた。
「財宝?欲しけりゃくれてやる。探せ、この世の全てをそこに置いてきた!!」
時は大航海時d』
「…くっだらねぇ。」
魔王がこの世に君臨してからというもの、このようなアナウンスというか、朗読というかが頻繁に流れるようになった。
何がこの世の全てをそこに置いてきただよ、不法投棄か、捕まってしまえ。
「…あーあ、弟共は案の定海に行っちまうしよぉ。」
かくいう俺はかろうじて電波の届く山奥の山小屋に住んでいた。
文明の利器とはだいぶかけ離れているが、ラジオくらいは繋がる。
世の中にはトゥレブィズォンやスメートゥフェンという物があるらしいが、まぁ、全く関係ない。
「山で山菜とって…うさぎ狩って暮らしてる方が…よっっっぽど楽だっつーの。」
ひとつなぎの財宝がなんかのかは、そりゃあ気になるが、いつか手に入れた奴が「お宝は○○だったぜうっひょー!!」みたいな事をつぶやくと思う。
それまでの辛抱だ、自分で取りに行きたいとは思わん。
「さて、そろそろ食材集めにでも行くかねぇ。」
ラジオとこしょうだけがポツーンと置いてある机を支えに立ち上がる。
山小屋っつってもそこそこの広さはあるのだ。
前までは海へと向かったバカ弟も一緒に住んでいたくらいである。
扉に立てかけてある火縄銃と、キノコや山菜を入れる籠、そして手袋を準備し、山へと向かう。
山は好きだ。
空気が澄んでいる。
とても美味しい。
小鳥のさえずる声、水のせせらぎ、植物の色。
何もかもが海に勝っていると思うのだが…だれも分かってはくれない。
ここらへんに住んでいるのはもう俺くらいになってしまった。
別に寂しくなんてない。
いずれ一人になるのだ。
「…いつもありがとさん。」
ヨモギやクリタケ等、山菜を取る際は必ず挨拶をするようにしている。
山神様とかいるのだろうか。
いるなら会ってみたいものだ。
「…今日はこんだけもらってくよ、またいつかな。」
山菜を見つけても、絶対に全てとってはいけない。
それは山に住んでいる動物達への敬いであり、植物への敬いであり、なにより全滅されては俺自身困るからである。
そう言えば、今日はうさぎを狩れそうにない。
何故だか全く動物の気配を感じないのだ。
「…ん…」
帰り道、鼻につくような甘い香りがした。
どこかで香水でも作っているのだろうか、ふざけないで欲しい。
匂いの出を探ること5分、簡単に見つけた。
「……」
「あらぁ、男の人、やぁっと来た…さぁさぁ…私の中へ…」
その植物のような魔物は俺をすぐにでも抱き締めるように腕を伸ばし、誘惑してきている。
が。
「…お前か、このあっまい匂いを出しているのは。
ふざけないでくれ、森の匂いが台無しじゃないか…」
「……ほぇ?」
その魔物は頭の上に『ポカーン』というテロップが出ているのではないかという程の顔をしてこちらを見てきた。
「…あ、あなた、この香りが効かないの?」
「はぁ、効く効かないというか、鼻につくだけじゃないか、やめてくれ。」
「…誘惑されて来ただけよね?強がり言ってるだけなのよね?」
「いや、一つ文句言ってやろうと思ってな。」
「 」
ショックだったのだろうか、ポカーンにガーンがついかされて、さしずめポガーンというような感じだ。
「文句は言ったぞ、この森から出てけとは言わんが…もう少し香りを少なくしてくれ」
「え、あ、あぁ…」
「じゃあな」
「ま、まちなさい」
「…なんだ」
「…もう香りを出すのはやめるわ。」
「それは助かる。」
言えばわかってくれるタイプの植物だったようだ。
「ただし明日からここに来なさい。」
…面倒なタイプの植物でもあった。
「悪いな、ここを通るルートを使うのは四日に1度程だ。」
ルート、というのは山菜巡りのルートである。
いくつか用意されていて、それを繰り返す事で生きながらえている。
「じゃ、じゃあ、四日に1度でいいわ…」
「なぜ上からなんだ、俺は帰るぞ」
「…う、き、来て欲しいのよ…1人は寂しかったわ…」
「……面倒だが、了承した。」
「ほ、ほんとう!?」
「四日に1度だがな。」
「わかってるわよ…ありがとう。」
「女を泣かせる趣味はない」
「な、泣いてなんかっ!」
面白い植物だ。
名前は何と言うのだろうか。
「…アルウラネよ」
「…?」
「アルウラネって種族…名前はないわ」
「…ああ、なるほど。ではアルと呼ぼう。」
「…安直ね」
「分かり易いだろ」
「異論はないわ」
そうして、というかどうして、アルウラネと知り合ってしまった。
それからというもの、俺は四日に
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