「…くしゅっ」
どうやら風邪を引いてしまったようだ。
体が暑い。
薬なんてものが都合良くあるはずもなく、とりあえず布団もしかぬまま、僕はその場で寝転んだ。
「あー…なんで…傘渡しちゃったんだろう…」
それは風邪を引いた事を後悔してのセリフではなく、何故面倒事に首を突っ込んで、苦手な大人の女性に声をかけてしまったのだろう。
ということである。
言っていなかった。
僕は雨の次に大人の女性というのが嫌いだ。
人の目ばかりを気にし、それまで仲良くしていたかのように見えた人も、死んでしまえば手のひら返し。
「あぁ、面倒くさい…」
なにもかもが面倒くさい。
…のに、呼び鈴が鳴った。
ふざけないでくれ、僕はここで寝ていたいんだ。
「…………………」
連打されてる。
赤い配管工よろしくの連打力。
…出るしかないじゃないか。
気だるい体を持ち上げて扉の方へと歩いてゆく。
「…ばぁっ」
「……なんのようですか。」
「なんだぁ、随分反応が薄いんですね。」
そこには傘を貸してやった女性が立っていた。
貸した、というかほぼあげた、なのだけれど。
「…なんのようですかと聞いているんです、ただ驚かしに来たわけではないでしょう」
「んーと、傘のお礼です。」
「そんなものは要らないので…お引き取り…ねが…」
そこまで言ったところで、僕の視界は黒く包まれていった。
「…ん…」
ひいた覚えのない布団の上で目を覚ます。
帰って来て無意識にひいたのだろうか。
「あら、起きたのですね。」
「…う、わっ」
「そんなに驚かないで…凄い熱でしたよ。」
「…とりあえず顔が近い、です」
「…あっ、ご、ごめんなさい。」
目を開けると僕の顔を覗き込む女性の顔があった。
勿論彼女だ。
どうやら押し掛けたらしい。
余計なお世話だ。
「…いま、お食事を作りますからね」
「…いいよ」
…何故だろう、この人を相手にするとドス黒い感情がこみ上げてくる。
「なになら食べれそうですか?」
「いいっていってるじゃないですか…」
毒々しく渦巻いて、破裂しそうだ。
「もう…そう言わずに…」
「いいって言ってるだろ!!」
「!?」
…嗚呼、破裂してしまった
「…たのむから…帰ってくれ…」
「…わかりました、今日のところは帰ります。」
「……」
「…途中ですが、お吸い物を作っておきました、よければ飲んでくださいね。」
「…はやく行けよ…」
「…はい。それでは、また。」
体だけでなく、心もつい熱くなってしまったようだ。
洒落にならない。
それにもう大人には頼ってたまるかと、誓ったのだ。
その思いは硬い。
それでも少し冷たくしすぎただろうか。
あれだけいえば、きっと彼女はもう僕に関わったりしないだろう。
「…飲んでやるものか。」
スープへと目を向けるが、喜びや嬉しさの前に、何故かどうしても嫌悪や憎悪がこみ上げてくる。
自分の感情がよく分からないまま、僕は台所に背を向け、もう一眠りすることにした。
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