出会い。

梅雨。
雨は嫌いだ。

「…じめじめして、嫌な感じだな。」

コケの生えてしまった木製のタンスを、ゆっくりと撫でる。

「…あぁ、そろそろご飯作らなくちゃ。」

重い腰を上げ、のらりとキッチンへと向かう。

「なんでもいいや、食べれれば。」

冷蔵庫の扉を開ける。

「…あぁ、買い物、行ってなかったんだっけ。」

思ったよりも悲惨な中身だった。
雨は嫌いだ。
大嫌いだ。

「…行かなくちゃ」

正直此処で倒れたっていい。
餓死で死んだってどうってことはない。

「…ん」

腹の音が鳴る。
どうやら、僕の胃はどこまでも図太いらしい。

「…はぁ。」

体は正直ね、なんて。
こんな時に言われたくはなかった。

「…やだな。」

窓から外を見る。

「……」

もう一度腹が鳴った。
これ以上なられるとどこか罪悪感が出てくるので、僕はパーカーを着て、外に出る準備をすることにした。
腹の中の何かに餌を買ってくる気分だ。
腹の虫に名前でもつけてやろうか。
ヤマザキさん、で、いいかな。

「……行ってきます。」

返事の返ってこない部屋にそう投げかけ、扉を開ける。

「…やだなぁ。」

雨は…嫌いだ。

「…」

傘たてに入っていたビニール傘をゆっくりと開く。

「…ぁぁ」

曇り空。
透明なビニールから、雨が降ってきている様子が見える。

僕は、思わず息を漏らした。

「とりあえず、野菜を買おう。」

気が滅入っていても、食べられるもの。
そう考えながら数分足を動かしていると、すぐ近くの八百屋へと着いた。

「…おじさん、レタスとトマト。それときゅうり頂戴。」

「おっ、アカツキさん家の子じゃねぇか、お使いかい?」

「…いえ。違います。」

「なぁんだ、そんなちっけぇのにもう家出したってのかい。
ちょっとは親孝行してや…」

「…早くしてくれませんか。」

「…お、おう、わりぃな、ほら。」

「…何円ですか。」

「あーっと、待ってくれよ……っと」

その場できっちり代金を払う。

後は帰ってサラダでも作って、寝るだけだ。

「…ん。」

その帰り道、雨に打たれている女性を見つけた。

「……関係、ないや。」

誰かを待っているのだろう、誰か大切な人を。
急に雨が降ってきてしまった、というわけか。

気の毒に。

「…あの。」

…僕は自分の意思に反して、その女性に声をかけていた。

「はい?」

「…傘、使ってください。」

「…あら、いいんですか?」

「僕は濡れても構わないので。」

「…そう、君、お名前は?」

「………アカツキ、ユウヤです。」

「…ユウヤ君、ね。ふふ。ありがとう。」

「いえ…それでは。」

僕は逃げるようにその場から離れ、全速力で家へと向かった。

「…ユウヤ君。」

彼女が柔らかな笑みを浮かべたことなど、まだ知らずに。

15/06/08 22:16更新 / みゅぅん
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