古城風宿泊施設の管理人




 一人の男が一台のワゴン車の中で、片手にはメモ帳を、もう片方にはペンを持ち、一つ一つにチェックを入れていく。

「えーっと、郵便局止めの荷物は取った。買出しリストの飲食料――は全部買った。車のガソリンは入れて満タンだし。じゃあ、家に帰るとしますか」

 ブレーキを踏みながら、車の鍵を軽く捻って車のエンジンに火を入れる。するとメーターに光が灯り、エンジンが動き出す振動音が車内に。
 そしてカーステレオからオート設定で組み込んだ音楽が、エンジンの振動音を消すように流れ出す。
 シートベルトを締めて、ミラーの確認をしてから、サイドブレーキを下ろし、ギアを入れる。
 周りに人が居ない事を確認して、男はブレーキから足を離すと、巧みなアクセルワークで駐車場を出て、車道を走り始める。

「〜〜〜♪〜〜♪」

 カーステレオの音楽に合わせて鼻歌を歌いつつ、大通りを法定速度で程よく進むと、左に曲がって一つ路地に入る。
 そのまま直進していくと、ビジネスホテル並にでかい古城のような建物が見えてきた。
 看板には『ホテル・ディエンドロック』とでかでかと書かれてあり、その下にお品書きのように『ご休憩』と『ご宿泊』との項目が並んでいる。
 所謂ラブホテルというヤツである。
 そんな恋人や妻と一緒に来るべき場所に、荷物を満載した男一人のワゴン車が、真昼間からウィンカーを出して駐車場へと入っていくというのは、一種不思議な光景である。
 するすると駐車場内を移動し、直通エレベーターのある場所の近くへとすんなり車を止める。ずいぶんとこの場所に馴れているように見える。

「はぁ〜。台車があるって言っても、重労働だなこりゃ」

 ワゴンのエンジンを切って、後部ドアを開けてぎっしりと詰まった荷物を前に、男は溜息を吐き出しながら、展開した台車にえっちらおっちらと荷物を載せていく。
 やがて台車に乗せきれないぐらい乗せて、ワゴンの後部ドアを閉めると、鍵の遠隔操作でドアをロックする。そして台車をガラガラと押しながら、エレベーターの前まで歩くと、上へと行くためのボタンを押す。
 やや待ち、ちーんという電子音と共に開いたエレベーターに台車事乗ると、男は車の鍵に付いていた別の鍵をエレベーターの鍵口に差し込み回してから、最上階のボタンを押した。
 下から上へと登るため、少々の重力を体感しながら、男は数字が変わっていく文字盤に目をやっている。
 程なくして最上階へと辿り着いたエレベーターの扉が開く。
 開いた先に広がっていた光景は、廊下ではなくやや広めのマンション玄関のような場所。
 そこへガラガラと台車を押して男が降りる。

「ただいまー」

 台車を横に置き、男は靴を脱ごうとしながら、そう言葉を奥の空間へと投げかける。
 すると廊下の先から、水色の服を来た女性が音もなく、すすっと男の前に滑るように突進してきた。

「お帰りなさい。真咲〜♪」

 がばっと男へと抱きついたのは、胸やお尻が豊満で腰が細い水色の服の女――いや、水色の服に見えるが、それは布ではなく半流動体で出来ているため、どうやら彼女はスライムのようだ。しかも頭にティアラのような飾りがあることから、クィーンスライムだという事が分かる。
 その彼女が男に抱きつき、さらには頬擦りまでする有様である。

「わ、ちょ、ツモイ。帰ってきて、行き成り抱きつくなよ」
「だってだって、真咲が居なくて寂しかったんだもの」
「二時間ぐらいだろう、離れてたのは」
「二時間『も』離れてたの。もうちょっとで真咲分が足りなくて、死んじゃうところだったんだから」
「仕方ないだろう。ツモイが外に出れないから、俺がお使いで出てきたんだろうに。第一、こんなに買い込まなきゃ、もっと短い時間で帰って来れたんだぞ?」
「だってぇ。買い込まないと、頻繁に真咲と離れなきゃいけないじゃない。そんなの耐えられない〜」
「ああ、もう、分かったから。その台車の分の他に、まだ車の中にあるんだから、取ってこないといけないから」
「大丈夫。この建物の中なら、私の領域だもの。みんなー、よろしくね〜〜」
「「「はい。畏まりました」」」

 言い合いをしていた二人の側から、にゅるりとスライムが五体出てきた。顔立ちが似ている事から、ツモイの分身体だと予想が付く。
 その分身体は台車の上の荷物を、まるで空箱を扱うようにして、次々と廊下の先へと運んでいく。

「では、下の荷物を取りに行きますので、鍵を拝借致したいかと」
「ああ、よろしく」
「か、畏まりました」
「あー、いいなー。頭ナデナデ〜」

 両手を差し出して鍵を受け取ろうとした分身体が可愛らしかったからか、男――真咲は分身体の頭を撫でてやった。すると分身体は照れたように俯きつつ、真咲の手の感触に身を任せ、本体であるはずのクィー
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