多種多様な魔物娘が居る中で、一番の手のかかる種族はと聞かれれば、人々や魔物娘の各々の答えは、十人十色であろう。
しかしながら、魔物娘を嫁に持つ夫たちの答えはというと、あげる種族は違えど言う事は一つ。
つまり。
『一番は判らないが。とりあえず家の嫁さんは、手がかかるよ』
それは愛しているがゆえの惚気の言葉であり、こと思考回路から思想まで、人間とは待ったく違った存在である魔物娘の夫となった者たちの、心情を的確に表しても居る。
そんな手間の掛かる状況に、つい最近突入した者が居る。
「うぅ〜〜ん……」
とある場所のとある一棟の建物の一角の部屋のベッドの上で、今まさに寝返りを打った平凡な若者こそが、その人物。
「ふふふっ……良く寝てるにゃん」
そしてその直ぐ傍に、忍び笑いを浮かべて忍び足をして近づいてくる者が一人。
頭の上には猫耳、色黒の肌に、大きな肉球付きの手足を持つ、共に黒のタンクトップとビキニパンツのような衣服を身に着けた魔物娘。
砂漠地帯の遺跡の守護者として名高い、スフィンクスこそが、もう一人の主人公である彼女の種族名。
そんなスフィンクスの、獲物を見つけた猫特有の、爛々と輝く目とゆらゆら揺れる尻尾を見れば、大体の人が彼女の次の行動の予想が付くというものだろう。
「おっきろー!!」
「ぐふぉー!!?」
ぴょんとベッド脇から飛び、青年の腹の上へボディーアタックを敢行したスフィンクス。
その威力は強大だった様で、青年は一発で目を覚まし、ばたばたとベッドの上でのたうち回ってから、自分の上に乗っかる者に目を向けた。
「おはよう、ミェルー。でもその起こし方は止めてって、いつも言ってるでしょ。いつか心臓が止まるか、内臓が破裂するかして僕は死んでしまう」
「ふーん。そんにゃ事を言って、いいのかにゃ〜ん?」
起こしたのに小言を言われたのが面白くないのか、ミェルーと呼ばれた魔物娘は、甘えるように青年に纏わり付くのを止める。
そして急に真剣な眼差しで、じっと奥底まで覗こうというような目付きで、青年の瞳を覗き込む。
「ナルフ、我が問いに答えるにゃ。普通に起こしても起きないのは、何処の誰だったかにゃ?」
先ほどまでとは一変して、真剣味の在るミェルーの態度から発せられたその問いに、ナルフと呼ばれた青年は、ぐっと言葉を詰まらせてから、次のように問いに答えた。
「僕です。御免なさい」
「正解」
問いの答えと謝罪に満足したのか、ミェルーは再度ナルフに纏わりつき始める。
それは先ほどよりも、より熱っぽい。
「正解したご褒美に〜。今日は一日中、にゃんにゃんする権利を進呈するにゃ〜」
「朝っぱらからそれはどうかと思うのだけど。まさか。さっきの問い掛けに、呪いを使った訳じゃないよね?」
スフィンクスの呪い。
問い掛けに誤答した者を、スフィンクスの虜にしてしまう呪い。
逆に問い掛けに正答すると、スフィンクスがその呪いによって、発情してしまうという厄介なもの。
先ほどの問い掛けにその呪いを掛けていたために、正答した事でミェルーがその呪いに掛かって発情しまったのではないかと、そうナルフは考えた訳である。
しかしそのナルフの疑問を聞いたミェルーは、心底呆れたと言わんばかりに、シャツ越しにナルフの胸板に頬を当てながら、盛大な溜息を吐いた。
「もうナルフにぞっこんラブな私が、ナルフに呪いを掛けるわけにゃいじゃにゃいか。さては、ナルフは魔物娘の気持ち(乙女心)が判ってないにゃ?」
「乙女心??」
つい数週間前からの押しかけ女房の心を計りかねたのか、ナルフは小首を傾げてみせた。
だがスフィンクスの質問に対して曖昧な答えを返したからか、それとも乙女心を馬鹿にされたと感じたのか、ミェルーは目に見えるほどに不機嫌な様子になると、ナルフを万歳の形でベッドに両手で縫いとめてしまう。
「本当に判らにゃい?」
「……ごめん。そういうのには疎くて」
「魔物娘が、愛する相手に何を求めているか、判らにゃいと?」
「魔物娘とはあまり面識が無くて。まともに話すのは、ミェルーが最初だったんだ」
ナルフの最後の言葉に少しだけ気分が晴れたようだが、問い掛けに知識に無いとの答が重なったことで、ミェルーは何かを決意したようだ。
「じゃあナルフ。魔物娘の気持ちは判らなくても、私が今一番欲しいものは何かわかるかにゃ?」
その問い掛けに、今まで彼女との暮らしぶりを思い出すような素振りを見せた後に、ナルフは問いに答える。
「えーっと……お目覚めのキスかな」
「それじゃあ、部分点だけしかあげられにゃいにゃ〜」
「一緒に朝ごはんを食べる」
「ちょっと遠退いたにゃ」
「おしゃべりとか?」
「それは朝ごはんと同じ位だにゃ」
キ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想