ハーレムの主と、バイコーンさんの、淫らな牧場生活



 此処は途轍もなく広い丘陵地帯。
 そこに一つの大きな建物が存在していた。
 その建物の周りには柵が設けられているため、何かを育てる牧場だと素人目にも判る。
 確かに太陽が燦々と降り注ぐ草花が茂る丘があり、近くには小川が流れる森が点在するというこの土地は、何を育てるにしても、牧場に適した場所だと思われる。
 しかしそんな広大で利用価値のある土地には、先ほどの建物一つだけしかない。それが初めて見た者には、やや異様な光景に映る事だろう。
 これは知る者ならば知っている事だが、この土地の直ぐ先には魔界が広がっており、こんな場所で酪農などしようものならば、三日と待たずに経営者は魔物娘の餌食になってしまう。そのため牧場の価値のある場所は、この喉から手が出るほどに魅力的なものの、だれも移り住もうとはしないのである。
 そんな危険な土地に、なぜ一つだけ牧場が存在しているのかと言うと、それは此処の経営者――というか持ち主が魔物娘だからに他ならない。
 魔物娘の持ち物となれば、その他の魔物娘は縄張り意識に影響されて、この牧場へはやってこないのだった。
 さて件の経営者がどんな魔物娘かというと、彼女は今まさに牧場の片隅に作った畑で、土弄りをしている真っ最中。

「ふぅ……今日も良いお野菜が取れそうですわ」

 日に焼けた褐色の肌に伝わる汗を拭いながら、青々としたキャベツを見て嬉々と呟いたのは、銀髪頭の上には黒い二本の角を持ち、下半身に黒い毛並みの馬の体を持つ、一般的にはユニコーンから変化したとされる、バイコーンという魔物娘。
 彼女こそこの牧場の持ち主であり、彼女は自身の夢のためにこの牧場を作ったのだ。
 それにしても馬体が黒いのは毛並みだから置いておくとして、頭に被ったレースや人間の身に付けている衣服が黒いのは、畑仕事に向いていない気がする。しかも身に付けている衣服が、花嫁衣裳を思わせるデザインなため、より一層畑弄りに適しているようには見えない。
 現に黒い手袋が土に塗れているのだが、しかし当の本人は気にしていないのか、鼻歌を歌いながら畑に出来た野菜を収穫し、近くにおいてあった籠へと入れていく。
 そんな作業をしていた彼女の顔の横にある馬耳が、遠くの音を聞きつけたようでぴくぴくと反応した。

「あら。今回は随分と、お早い到着ですわね」

 そして彼女は畑仕事を止め、手にふっと魔法の息を吹きかける。すると手袋にへばり付いていた土が跡形もなく消え去り、新品同様の綺麗さを取り戻した黒手袋が彼女の手を覆っていた。
 程なくして人間の耳でも、バイコーンのではない馬の蹄の音と、その馬が引いているであろう馬車の車輪が回る音が聞こえてくる。
 
「おーい、コジールさん。商品持ってきたよ!」

 名前はコジールというらしいバイコーンは、彼女に向かって手を振ってくる馬車の手綱を握る男に向かって、にこやかに手を振り返しつつ正門へ向かい、柵の扉を開けて牧場への訪問者を出迎る。
 馬車はするりとその扉の中を通り抜け、勝手を知っているように牧場内を進み、建物の脇に設けられた通用口まで進むと、止まった。
 コジールは柵の扉をきっちりと閉めてから、商人の馬車に近づく。

「こんにちは商人さん。景気はいかがかしら?」
「なかなか上々だよ。これもそれもコジールさんのお陰だね。もっともこんな事をうちの街中で言った日にゃ、私の首が飛んでしまいますが」

 がははと笑う商人に、彼の様子がおかしい様子でくすくすと笑い返すコジール。
 その話の内容から察するに、どうやらこの商人住んでいるのは反魔物領のようだ。
 魔界に近づく毎に、魔物娘に襲われる危険性が上がるというのに。危険を押してまでこの牧場まで来るとは、ここにはそれほど魅力的な取引材料があるのだろうか。
 
「それで商人さん。お品物の内容は?」
「何時も通りに少しの酒と穀物の粉が二袋に干し肉がそれなりだな。後は前に要望貰った通りに、様々な野菜の種をたんまりと持ってきた。それと売れ残りの魔物奴隷が二匹だね」
「あら、今回も奴隷がありますのね。前も一人売れ残りを持って来ていらっしゃってたのに」
「俺は本業じゃないんで詳しくは知らないですがね。魔物の奴隷が街中に増えた所為か、何故か売れ行きが余り良くないんだそうで。ちょっと問題があると、それを理由に売れ残っちまうんですよ。そんで俺に泣き付いてくるんですよ。『仕入れ値でいいから引き取ってくれ』って」

 立て板に水が流れるように、随分とぺらぺらと口の上手な商人だと舌を巻きそうになる。
 しかしこれで彼が此処に来る理由の一つが明らかとなった。
 つまりは食料品を出しにして、売れ残りの魔物娘をコジールに売りつけるつもりなのだ。
 魔物娘が金を出してまで他種の魔物娘を買うのかという疑問はあるもの
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