一つ目に愛しいヒトを写しながら


 
 じりじりと熱せられた鋼が真っ赤に色付き、それが金床の上でカツンカツンと槌を振るわれて小気味のよい音を立てる。時折、傍らの桶に入っている水に槌を浸して持ち上げ、赤い鋼にその水を槌で掛けて浮かび上がってくる鉄の垢を落としつつ、正確な槌打ちで少しずつ伸ばしていく。
 その鋼を打ち付けているのは、熱気対策に薄着を着たまだ歳若そうな女性。
 赤い鋼と向き合うその瞳は真剣かつ冷静な色を持ち、鋼の撃つべき所を見極め、槌を振るう腕は見た目は細く何度か槌を持ち上げたら動かなくなりそうなのに、見極めた場所に寸分の違いも無く何度とも無く打ち込み続け、硬いはずの鋼の塊が彼女の望む通りの形へと作り変えられていく様は、まさに職人技と呼んで差し支えないだろう。
 そしてそんな彼女を人々が見たら、見た人の十人中九人は口をそろえてこう言うだろう。「矢張りサイクロプスだ。巧いものだ」と。
 そう彼女はサイクロプスと呼ばれる魔物娘。額には一つの角と顔に大きな一つ目に体に青白い肌を持つ、俗に鍛冶仕事なら右に出るものは居ないとされる種族。その中の一人である。
 そんな大多数の人間に、いま彼女が作っているのがただの包丁であると言った場合、一体どんな反応を返すのだろうかと考えずにはいられない。
 しかしながらじゅわりと音を立てて、熱せられた鋼によって水が蒸発し、角度や場所を変えてその刃先を眺めるその瞳には、生活用品作りといえども一切の妥協を許さないような意志がありありと浮んでいた。
 確認作業が終わり、曲がっている箇所を何度か槌で直した後で再度焼きを入れてから、その包丁を灰の中へ入れて覆ってしまう。
 このままゆっくりと冷ます事で、包丁に粘りを出すのが狙い。これはジパングの鍛冶がよく使っている方法であるらしい。

「ふぅ〜……」

 一仕事終えた彼女が頭から手ぬぐいを取り外し、それで汗の浮ぶ額と薄着を捲って体の中を拭いていく。
 女性としては他者の目を意識しない油断しきった行動だが、この鍛冶場には彼女以外の姿は無いために、この行為を誰に見咎められるわけでもない。
 しかしそんな場所でも、得てして不意の訪問者はあるもので。

「随分久しぶりだなぁ。メノウ居るかな……」

 ぎぃっと軋む扉を開けて入ってきたのは、動き易い服装に皮鎧といういかにも冒険者といった風貌の男。
 そしてサイクロプスは体を拭く手を止めずに、音がした扉の方へと振り返る。

「……もしかして、ドーツ?」
「メノウ!久しぶり……だ……ね」

 だがそのドーツと呼ばれた男も、メノウと呼ばれたサイクロプスも、二人顔を合わせた途端凍ったかのようにその場で固まってしまった。
 メノウは久しぶりに会う幼馴染に対して、胸の中で様々な思いが駆け巡っている所為で。ドーツは成長したメノウの、捲り上げた上着から覗く女性らしい青い体躯を視界に収めた所為で。
 ドーツの視線に不審なモノを感じ取ったのか、固まっていたメノウはゆっくりと彼の視線を辿り、それが自分が捲り上げている上着の――踏み込んだ表現を擦るならば、そこから覗く下乳へと注がれているのを察し、慌てたように服を下げて胸元を隠した。
 ドーツも途中で自分が何処を見ていたのかを悟られたと確信したのだろう、顔を背けるのはメノウが服を下げるのとほぼ同時だった。

「……見た?」
「いや、見ては――」
「本当に?」

 無表情ながらも羞恥でやや染まった頬と、持ち前の大きな一つの瞳で心の底まで覗かれるようにじいっと見つめられたドーツは、観念したように顔を背けたまま言い難そうに言葉を紡ぐ。

「――すいません。少しだけ目に入りました……」
「……えっち」

 ぼそりとそれだけ呟くと、メノウはドーツを置いてけぼりにするように、作業場から奥へと引っ込んでしまう。
 そんなメノウの様子に、気難しい彼女を傷つけてしまったと思っているのか、ドーツは先ほどの軽率な行動に口の中で小さくなじる言葉を過去の自分へ吐きかけた。
 しかしそんなドーツの行動とは裏腹に、数十秒後奥からお菓子の入った木椀と紅茶のポットに、二つのカップを手にしたメノウが作業場へ戻ってくる。
 どうやら久しぶりの幼馴染のために、お茶とお茶請けを取りに奥へ入っただけだったようだ。

「メノウ。さっきは御免」
「……言わないで。油断していた私が悪いんだから」

 言外に気にしていないと含ませて、メノウは作業場を区切る膝丈ほどある段差に手に持っていたモノを置くと、ドーツへ横へ座るようにと床を手で叩いて指示をする。
 気にするなと言われたら逆に気にするものだが、流石に幼馴染と言うところだろうか。
 ドーツの方もメノウがそう言うのならと、メノウの横にすんなりと座り、しかも視線でドーツが菓子の催促をすると、メノウはカップに紅茶を注ぎつつ、こ
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