小さなサンタ(角付き)がやってきた(現代)

『じんぐるべ〜る、じんぐるべ〜る……』

テレビのCMからまたそんな音楽が聞こえた。
炬燵に足を突っ込んでカップ麺を啜りつつ、コンビニで買った唐揚げを箸で摘みながら、俺は何とはなしにカレンダーの日付を見てしまう。
今日は十二月二十四日。クリスマス――正確に言えば、クリスマス・イブ。
もっと正確に言うなら、キリストを信じる人が祈りを捧げる日であり、巷のリア充どもが『キャッキャ・ウフフ』『ギシギシ・アンアン』する日だ。
今日この日のために街のいたる場所にイルミネーションという名のLED電球が張り巡らされ、今日明日と二日にわたって幻想的な光景を生み出して恋人を迎え入れようとビカビカ光り輝いているし、各種飲食店は今日明日限定のメニューを売り出し、恋人と家族相手に金儲けに勤しんでいる。
だがそれは俺には関係の無い話。
俺はキリスト教の信徒では無いし、俺の家族は故郷に居るし、付き合っている恋人――それ以前に好きだと思える人も居ない一人身なのだ。
ちなみに俺と同じく恋人も居らず家族も遠くに居る友人連中は、今日から二日間に渡って行われる『クリスマスは中止になりました。だから皆で鍋を囲もう』という、もてない男同士でキムチ鍋を囲むというわけの判らないイベントに参加するらしいが、何故虚しくなりにわざわざ金を払ってまで参加するのか理解に苦しむ。
つまり俺にとって、今日明日はただの普通の日。
食べなれたカップ麺とコンビニの惣菜を食べながら、ぼーっとテレビなど見つつ一日を過ごすだけの、ごく普通の日。

『ピーン、ポーン』

そんな益体も無い事をつらつらと考えていると、唐突に間が抜けた音が出る我が家のチャイムが鳴った。
はて?友人連中は予定があったし、ヤマゾンの通販で注文したので配送途中のものは無いし、食事をしているのだから出前を頼んでいるわけはないし……

「はーい、どちらさん?」

がちゃりとドアノブを回して扉を押し開いて、誰がチャイムを鳴らしたのかを確認しようとするが、俺の視界の中には人影は無い。左右を見ても人影は無く、なんだ悪戯かと結論付けて扉を閉めようとした時、視界の下の隅に角がにょっきり生えている事に気が付いた。
俺に角の生えた知り合いは居るには居るが、全員今日明日と忙しいはずだがと視線を下げると、そこには見知らぬ小さい女性。
ショートカットの頭から筍の様に生えた角と、可愛らしい顔の横から生えているのは人間のものとは違う耳に、チャイムを押そうと伸びた手は毛皮に覆われた肉球付きの指が付いているし、そしてブーツっぽいモフモフの足。それらから察するに、この女性はバフォメットという珍しい種族の人だろう。
しかしその格好はバフォメット種族が好んで着る『紐ビキニアーマー&マント』ではなく、『普通の紐ビキニ&ファー付きマント』という一風変わったか服装をしていた。
しかもその着ている衣服が赤一色なのは何か意味があるのだろうか。
あれか、某カエル軍曹のように『赤いから三倍』という理論か?という事はこのバフォメットは他のバフォメットより何かが三倍という事か?
そんな事を考えていた俺の反応が鈍い事を察したのか、俺の目の前に居るバフォメットは俺の目を確りと見ると急にポーズを取り始めた。
右手は顔の横で横ピースを決めつつ、左手は俺にマントの裏地を見せようというかのように裾を掴んで拡げ、両足は可愛らしく内股に、腰はくびれを意識させるように軽く横に曲げる。

「聖なる夜に舞い降りた可憐な一輪の花。マジ狩るバフォメット、レフォールちゃんにゃりよ♪」

そして最後にウインクをしながら俺にそう言ってきた。
そのバフォメットの姿は、日曜日の八時位にヒーロータイムの裏番組らへんでやってそうな、変身少女モノを意識して居るように見える。
いやもしかしてこれが彼女の素なのだろうか。つまりは赤くて三倍なのは、頭のイカレ具合なのだろうか。
考える事も突っ込みどころも沢山あるのだが、とりあえず初対面でこういう突飛な行動に出る女性に対し、俺が言いたい事はただ一つ。

「……チェンジで」

とりあえず頭に何かが湧いていそうな手合いと係わり合いになるとろくな事に成らないので、俺は気に入らない女性に対しての最大限譲歩した言い方を模索した結果、そうバフォメットに告げて扉を閉めた。
視界から赤いバフォメットが消えたことで通常思考を取り戻した俺は、『きっと罰ゲームか何かなのだろうな、最近の○学生は危ない遊びをしているな。俺がもしロリコンだったらどうするのやら』と勝手に結論付けて炬燵に入り、テレビをザッピングして面白い番組が無いか探すことを始める。

『ぴーん、ぽーん』

しかしその行動はチャイムによって遮られる。
まあ薄々誰がチャイムを鳴らしているかは判っているので、出る必要も無いのだが、出なければ出ないで何
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