魔王が代替わりし、地上にいる全ての生物がその新たな魔王の魔力によって変化を強いられた。
それは自らの生活のためだけに鉱山を掘って鉱物を得て麓の町でそれを加工し、度々立ち寄る大きな街の限られた商人に売り払って生計を立てていたドワーフにも及ぶ。
ドワーフたちは魔王の代替わりによって姿形が変化し、元から低かった体長は更に縮んで人間の幼子ほどの大きさへ、性別は全て女に統一されてしまい。
そのために町に人間の男を呼び寄せるなどと、町の体制を変化させざるを得なかった。
そして変化が起こる時に、事故は得てして起こるもの。
「逃げろー!崩れるぞ!!」
長く伸びた坑道の一区画、ドワーフの背丈に合わせた穴の拡張工事をしていたその場所で、そんな誰とも知らない声と崩落する岩の音が響き渡る。
砂煙が坑道内にもうもうと立ち込めて一切の視界を塞ぐ中、その場所で作業していた人々は崩落場所から逃げようと駆け出していく。
やがて崩落の音が収まり砂煙の濃度も薄まった頃、一人の男と一人のドワーフは自分たちが坑道の中に閉じ込められている事を知った。
「あちゃー、参ったなこりゃ」
そう口から言葉を出したのは一人のドワーフ。動き易い布の面積が少なめな服に包まれた小さな体躯から出て来たのは、人間の子供のように高い声。それは岩壁に二・三度反響して消えていった。
ドワーフは頭を苛立たしげに掻き毟った後、カンテラの光に照らされた崩落して積み重なった岩の様子を調べようと手を伸ばす。
「崩落した場所を確かめようって言うんなら、止めた方が良いですよ」
閉じ込められたもう片方である男はそう声をドワーフに掛けた後、拡張工事の済んでいない小さい口径の坑道に窮屈そうに身を屈めていたが、完璧に塞がってしまった坑道に気落ちしたのかその場に座り込んでしまう。
「下手に触って再度崩落したら、絶対に俺ら助からない」
「こちとら生まれた時からこの坑道を遊び場にしてたんだ、そんな下手を打つわきゃねーだろ」
その言葉通りにドワーフは慎重な手つきで岩に手を当て、軽く叩いた音でどの程度崩落したのか、掘って再度開通させられるのかを確かめていく。
端から端へ隅々調べていたドワーフの頭に、からりと小石が当たった。
ふと目を上に向けたドワーフの視線の先に、今にも落ちてきそうなドワーフの頭の三周りもでかい岩が。
ドワーフがまさかと思ったその瞬間、その岩がゆっくりと岩壁から剥がれ出て、重力に引かれて落ち始める。
そして岩は地面に突き刺さると、離れていても腹を殴られたと錯覚するほどの衝撃を坑道内に撒き散らし、その岩の下敷きになったモノは粉々に砕けてしまっていた。
「崩落したての場所は崩れやすくなってるんですから、上にも気をつけてくださいよ」
「わ、わりぃな、助かった」
冷や汗を流しながらドワーフの襟首を掴んでいる男がそう言うと、ドワーフの方も引きつった笑顔に冷や汗を浮かべて礼を言った。
坑道に閉じ込められて十数分が経ち、今の状況が可及的速やかに良くも悪くもならないと確信した二人は狭い坑道内の地面に座り込んで今後の事を話し合うことにした。
「あちしはレノーラ。麓の町の出身のドワーフ」
「俺はマスカー。旅暮らしで、旅費を稼ぎに町に来ました」
運命共同体となった二人は、とりあえず自己紹介をしてから硬く握手を交わす。
レノーラの小さい見た目とは裏腹に、マスカーが握る小さな掌から伝わってきたのは、人間の大男に掴まれたかのような力強さだった。
「レノーラさんは此処で働いて長いのですか?」
「まぁな。あちしが手伝いが出来る歳になってからだから……約十年ほどになっかな」
「そうですか、少し安心しました」
「なんだそりゃ。あちしを馬鹿にしてんのかい?」
マスカーの言葉に機嫌を悪くしたのか、レノーラは怒気を含んだ物言いをして睨みを利かせているものの、それを小さい体躯で行うものだから、マスカーには小さい子供が精一杯背伸びをして大人の真似をしながら頬を膨らませて怒っているように見えてしまう。
そのためマスカーは口の端に浮かびそうになる微笑みを押し殺しながら、レノーラに対して弁明をしようと口を開く。
「いえいえ、そんなことは無いですよ。それで今後の事ですけど」
「待った!」
唐突にレノーラがマスカーの言葉を言葉と手で遮った。
もしや本当にレノーラの機嫌を損ねたのかとマスカーが心配する中、レノーラは腕を胸の前で組み、むっと片頬を膨らませた不機嫌な様子でマスカーを睨みつけた。
「如何かしましたか?」
「いや、それだよそれ。しゃちほこばった敬語は止めてくんな、背筋がむず痒くならぁな」
そんな言葉を口にしながら、本当に手を背中に回して掻き始めたレノーラ。
「でも、一応は俺の雇い主の……」
「いいってそう言うのは。た
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