簡素な安物の衣服に身を包んだ男が山で薬草を取っている。
彼の名前はマルスコ・アウアイといい、腕が良いとはお世辞にも言えない医者ではあるが、この場所から近くの村では唯一の医者であるため村人は頼りにし、マルスコという名前を捩って『ヤブスコ』という愛称で彼のことを呼ぶ。
「お、あったあった」
目当ての薬草が見つかったのか、マルスコは屈むと毒々しい色をした一輪の花を取り、腰に吊るしてある小さな編籠へ。
その後も本当に薬草なのかと疑いたくなるような色をした草や花を摘みつつ山の中を歩いていたマルスコだったが、視線の先になにやらこんもりと盛り上がった布のようなモノを見つけ、訝しげながらも注意してその布の塊の様なものへ近づいた。
軽く足先で突いてその塊を刺激してみても大して反応は無く、何かの死体かと更に近づいて手に触れてみればその塊はまだ温かい。
指先で布の塊を捲るようにすると、そこから白と黒に斑に染まった毛と小さいながらも確りとした角がにょっきり捲れ出る。
「もしや!」
慌てて布を剥ぎ取っていくと、そこからは整った顔立ちを苦悶で歪めた一人のホルスタウロスの顔が。
「おい!大丈夫かい!?」
「お、おな……」
何かを言いたそうにしているホルスタウロスの口元に耳を寄せるマルスコ。
そしてホルスタウロスの口から蚊の鳴くような小さい声がマルスコの耳に届く。
「お腹すいた……」
その言葉と同時になった腹の虫の音にガックリとしたマルスコだったが、ホルスタウロスがその言葉を発して失神してしまったため、取り合えずマルスコは取り合えずこのホルスタウロスの状態を調べていき、彼女が直ちに危ないという状態では無い事を確信した後で、自分の家兼病院である場所へと走って向かっていった。
誰かの話し声が聞こえ、次に消毒液の匂いを感じたホルスタウロスが目を覚ました。
「頼まれていた薬。用法容量はきっちり守ってよ」
「ありがとうなヤブスコ。これで嫁をヒーヒー言わせることが出来るぜ!」
「ああそうだね、そうだといいな〜。じゃあ、お大事に〜」
誰かがそこから去りもう一人が自分のいる場所へ歩いてくるのを感じたホルスタウロスは、別に悪い事をしているわけではないのでそんな必要は無いのだが、思わずといった感じでどこかに隠れる場所が無いがあたりを見回す。
しかしながら整理整頓されている部屋の中には、ホルスタウロスの幼さが残る小さめの体躯でも、体を隠せる場所が何処にも見当たらない。
「ん? 起きたのかい?」
そう掛けられた声に振り向いたホルスタウロスが目にしたのは、ぼさぼさの髪に無精ひげを生やして白衣を着流すように身に着けた、いかにもヤブ医者といった風貌の長身の男――マルスコだった。
「はい、ごめんよ〜」
行き成り出くわした怪しい人物を見て混乱で固まっているホルスタウロスへ、マルスコは無遠慮に下目蓋を捲ってそこの血色を確認し、続いて額に手を当てて熱の程度を確認し、最後に腕を取って脈を診たマルスコは部屋を出るとそのまま何処かへ行ってしまった。
何をされたのか分かっていない様子のホルスタウロスは、寝かされていた診察台から降りようとして自分に掛かっていたシーツがずり落ちると、そこで自分が何も身に着けていない真っ裸だと理解すると、慌てて診察台に掛かっていたシーツを体に巻きつける。
丁度そこにマルスコが手になにやら良い匂いのするお椀と、綺麗に畳まれた衣服を持って戻ってきた。
「怪我とかの確認のために、あのボロ布は脱がしたよ。悪かったね」
マルスコに自分の体を調べられたと知ったホルスタウロスは、顔を真っ赤にて捲れそうになるシーツの胸と股間を押さえつけて必死に隠そうとしている。
少し考えるしぐさをしたマルスコだったが、何かを思いついたのか真剣な面持ちでホルスタウロスの顔を覗き込む。
マルスコの吊り上がり気味の目に射竦められたホルスタウロスは、急に居心地の悪さを感じてしまった。
「何処か痛い場所や、違和感を感じる場所はあるかい?」
「……」
「ん?? 喋れないのか?? ちょっと喉を拝見させて――」
「しゃべれる……」
マルスコに顎を掴まれそうになったホルスタウロスは、搾り出すような声色でマルスコに呟き、そしてそのお腹からは可愛らしい空腹の合図が。
ホルスタウロスが喋れる事を確認したマルスコは納得したのか、ホルスタウロスの寝ていた診察台の上に手に持っていたお椀と、着替えと思わしききちんと畳まれた服を載せた。
「じゃぁ俺は隣に居るから。それ食べて、それに着替えたら来てね」
それだけ告げたマルスコは、また部屋から出て行った。
そんなマルスコの慌しい様子に完全に置いてけぼりを食らったホルスタウロスだったが、お椀から立ち上る美味しそうな匂いにお腹がまた可愛らしく鳴ると、喉
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