地下墓地の生活



 地下墓地でいざこざがあった当日は、投棄された物資の搬入や伴侶を得たマミー達の合同結婚式などでばたばたと過ぎてしまい、モノーグもそれに借り出されていたために、あまり捕虜としての実感はわかなかった。
 しかし今日からは、本格的にモノーグの捕虜としての生活が始まる。
 前日はとりあえずという事で、アヌビスの双子姉妹の部屋に間借りさせてもらって眠っていたモノーグは、ぱちりと眼を覚まし部屋の中に件の二人が居ない事を知ると、体を起こして軽く解した後で部屋から出た。
 すると出入り口近くの机に、隣り合って座っている双子のアヌビスが目に入った。
「おはようございます。アテュームさん、ミキュームさん」
「「おはよう。モノーグ」」
 モノーグにアテュームとミキュームは異口同音に挨拶を返し、机の上にある紙に向い直すと、二人してそこに何かを書き込んでいる様子だった。
「何をなさっているんですか?」
「ん?これか?」
「モノーグの今日の予定表だ」
 二人に近づいて、後ろからモノーグがその予定表を覗いてみると、モノーグの起床時間に始まり、昼食まで何がしかの作業が続き、そして昼食が終わるとそこからはまた何がしかの作業という具合に組まれた予定が、既に夕食時まで書かれていた。
 騎士という職業柄、予定表を組まれることには慣れていたモノーグでも、魔物の予定表という未知のモノに少し気後れしてしまう。
「捕虜という立場でこんな事を言うのは申し訳ないのですが、手加減してくださいね?」
 頭の直ぐ後ろでそうモノーグに声を掛けられた二人は、気が付いていなかったのか、モノーグの方を勢い良く振り返ると数瞬の間固まってしまった。
「「……そのぅ、申し訳ないが、あまり近づかないでいてくれると助かる」」
 ミキュームもアテュームも俯き気味にモノーグにそう言うと、予定表に再度向き直ってしまった。
 二人の頬が少し赤い気もしなくは無いが、褐色の肌という事もあってモノーグには判断が付かなかった。
 二人の要望通りに少しはなれた位置で、二人が予定表を書き終えるまで待とうとするモノーグだが、何もやることが無い。
 普段ならば空いた時間は素振りをするなど鍛錬に当てるのだが、剣は折れたので捨ててしまったし、そもそも捕虜の身であるためにそんな事は出来そうも無い。
 さて壁に書かれている抽象文字でも眺めていようかと、モノーグが考えあぐねていると、どうやらそのモノーグの態度に気が付いたのか、二人は予定表の最後の部分をささっと書き終えると二人同じ動作で立ち上がり、アテュームは右手でミキュームは左手で紙を掴むと、隣り合わせになったままモノーグの前に立ち、その紙を手渡した。
「これが今日の貴君の予定だ」
「出来る限り守ってもらう」
「……善処します」
 やはり守らなければならないのかと、モノーグは心の中で溜息を付いてしまう。
「貴君はもう少し寝ていると予想していたので予定が少々狂ったが、まあそれはおいおい修正するとして、まずは朝食だな」
「モノーグはここに座るといい」
 そういうとアテュームは台所のあるらしい場所へ向かって歩き出し、ミキュームは二人が座っていた場所とは対面になる場所の椅子を指し示して、モノーグがそこへ座るようにと指示した。
「良いんですか、捕虜が一緒の食卓に並んでも?」
 人間の常識では考えられない措置に、モノーグはミキュームのその指示に従うべきかどうか悩んでしまう。
「無論良いに決まっているだろう。そもそも此処は墓地だ、牢屋や捕虜用の食堂などは無い」
「では他に捕まった人はどうしているんですか?」
「マミーが餌(夫)として丁重に持て成しているだろうな」
 ミキュームの語気が段々と荒くなってきたのを感じたモノーグは、大人しく指し示された椅子に座ることにする。
 モノーグが大人しく席に付いた事を見て、ミキュームもその対面に当たる場所に満足げに座った。
 どうやらアヌビスは相手が自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなり、素直に従うと機嫌が良くなるらしい。
 気難しいのも美女の魅力とは言うものの、あまり女性の扱いが上手ではないモノーグにとっては心配事にしか過ぎない。
 今のうちから悩んでも仕方が無いと思ったのか、モノーグは手元にある予定表を頭の中に入れ始め、それから程なくして彼の鼻に穀物の焼けるいい匂いが触れた。
「いい匂いですね。何時もアテュームさんが料理を担当なさっているんですか?」
「むっ、ワタクシとて料理は作れるぞ。今日はたまたまアテュームの当番というだけだ」
 腕を胸前で組んで憮然とした表情になるミキューム。どうやらモノーグの不用意な発言で、ミキュームのへそを曲げさせてしまったらしい。
 どうやって機嫌を直してもらおうかと思案していたモノーグだったが、その思考が答えに結実する前に、
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