地下墓地での出会い



「早速中へ入るぞ、騎士モノーグ!」
「まずはベースキャンプを作るのが先ですよ。ああ、邪魔なので、そこら辺で休んでいてください」
 とりあえず地下道の入り口近くに、モノーグは荷物持ちの男達に指示を出してキャンプを作らせると、モノーグは此処までの道のりを労いながら彼らに片道分にしては多少大目の金子を与え、持ってきた食料と水の使用を在る程度許可してから彼らに休憩を指示した。
「もう良いだろう。さっさと行くぞ騎士モノーグ」
「男に手を引っ張られても嬉しくないのですがね。次期子爵殿」
 そんなモノーグの様子を苛々して待っていたフローティンは、モノーグの腕を掴むと、そのままの足でこの地下墓地を探索する事にした。
 最初は威風堂々と歩いていたフローティンだったが、やがて恐々と抜き身の護身用の短剣を握り締めての歩みへと変わり、一方のモノーグは松明を片手に終始無用心とも取れるほどの軽快さでスタスタと歩き続けていた。
 だがモノーグが何の準備も無しに強気に歩いているのかといえばそうではない。
「おい、確り罠は見えているんだろうな……」
 モノーグの両の目には魔法の光が灯り、その光はモノーグの目に映る光景に、罠の場所を光らせて教えてくれている。
 この魔法はもしも王族を王都から逃がさなければならなくなった時に、逃げ道に張られているであろう罠を見破るためのものだったのだが、平和になりつつある今ではこの魔法を使えるのは、王を護る一握りの守護騎士と、その守護騎士を師とする一部の若輩騎士のみ。
 モノーグはその魔法の使える若輩騎士である事が、縁が無かった次期子爵のフローティンの護衛を命じられ、この場所へと同行させられた理由であった。
「見えてますから、俺の踏んだ場所以外は踏まないでくださ……」
――ガゴン
 しかしそんなモノーグの有能性も、フローティンの足元から発せられた異音が打ち消してしまう。
 よく見るとフローティンの踏み出した右足の石が沈みこみ、そして二人の周りから何かが作動する音が狭い道の中に小さく響き始める。
「頼みますよ、次期子爵殿……」
「いや、これはその……」
 そしてフローティンの弁明が終わる前に、二人の足元に転移魔方陣が展開すると、二人は光で包まれてどこかへと飛ばされてしまった。
 二人は前後不覚になるほどの浮遊感を体験した後に、地下墓地の何処かの石造りの大広間に飛ばされていた。
「ど、何処だここは!?」
 狼狽するフローティンを横目に、モノーグは素早く視線を前後左右に向けて部屋の状況を確認する。
 モノーグの四方には明かりのついた燭台が一つずつあり、石造りの壁には一面に抽象文字(ヒエログリフ)が刻まれ、何処へ続くのか判らない穴が五箇所開いていて、そして一段高いところに台座と、王家の紋章らしいものが刻まれた大きな扉があった。
 どうやらこの大広間は、王の墓前に設けられた謁見の間のようだ。
「ようこそと言っておこう。侵入者よ」
 この空間に響き渡りながらも凛とした声に、モノーグとフローティンはその声のした方向へ同時に顔を向けた。
 台座の上に仁王立ちし二人を見下ろしているのは、黒布と金の服飾品を身に付けた美しい女性だった。
 さらさらと絹糸のように細かい黒い前髪は眉の上辺りで切り揃えられ、後ろ髪は腰辺りまで綺麗に伸ばされ、意志の強そうな瞳は二人を見下ろし、硬い響きの言葉を放った薄紅色の薄いながらも整った形をした唇。
 そして二人の目を殊更に引いたのは、シルク地の布を薄墨で染めたかのようなハリと光沢の在る浅黒い肌に、スラリと伸びた肢体の中ほどから手足を覆う真っ黒な毛と、その先に存在する肉球がある獣の手足。加えて小ぶりの尻から伸びる真っ黒な尻尾。
 その姿は間違いなく魔物娘――しかも『古代王宮と墓所の守護者』、『古の魔導戦士』、『マミーを作るもの』と呼称されるアヌビスだった。
「此処は我が王の眠る神聖な王墓である。それを知ってこの地へと足を踏み入れたのか?いや、知らずに荒野の中にあるこの場所は見つけられぬ」
 決まった台詞を淡々と口にしているのか、フローティンのアヌビスを値踏みするような瞳を気にせずに、そのまま言葉を続けている。
 モノーグは自身の逃走経路を把握しようと目の動きだけで周りを見ると、壁の穴からマミーがゆっくりと数体ずつ出てきていることを確認した。
(袋のネズミか……)
 モノーグは早々に今はこの場から逃れる術が無いと判ると、腰にある剣に伸ばしていた手をゆっくりと元に戻し、アヌビスの様子を伺う事に集中し始めた。
「故に此処の守護を命じられた、わたくしアテューム・パルピールは、お前達を盗賊と断定する!そして王墓を荒らす盗賊は、マミー達の餌だ!!」
 アテュームと名乗ったアヌビスが手に持っている金の天秤の付いた錫杖を振りかざすと、
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