マールさんの初めての恋


「「「「かんぱーい!」」」」
 ここは学生食堂。
 その中には今年卒業した学生達と、彼ら彼女らに縁の深かった後輩に、多少の教師達が混ざり、卒業記念立食パーティーが開かれていた。
 そしてこの場所の一角に、この物語の主役になったホブゴブリンのマールが、大皿料理が減っていないか眼を配っていた。
「えーっと、あの料理は大丈夫でしょ。アレはもうそろそろ作り始めないと、無くなっちゃうかなぁ……」
 ホブゴブリンの特性上、人間に比べればやや頭の緩そうな印象はあるものの、他の会場を走り回っている部下のゴブリン達と比べても、確りした印象を回りに与えている。
「まぁーるぅーさーん!」
 そしてそのマールの背丈に似合わない程に膨らんだ胸に飛び込んだのは、今年の最優秀生徒の一人であるリャナンシーのアーリィ。
 アーリィがマールの胸は持ち前の弾力性で、アーリィの突進力を柔らかく受け止めると、程よく波打ち、ついにはアーリィの感じる衝撃をゼロにした。
「アーちゃんどうしたの、顔まっかっかですよ?」
「えへへ〜。果実酒があったの〜〜」
 そんなマーベラスな胸に顔を埋めて幸せそうなアーリィに、周りの男どもが思う事は唯一つ。
(『そこのリャナンシー、俺と代われ!』『ここは俺が行く、お前らは援護を!』『へっ。お前だけに格好付けさせられるかよ』)
 ……要約して、アーリィのようにマールの豊満な胸に顔を埋めたいと思っていた。
 そんなことを知ってかしらずか、マールは大地母神のような柔らかな笑顔を浮かべて、アーリィのさせるがままにさせていた。
「済みませんマールさん、俺のツレが。ほらアーリィ、おいで」
 苦笑いしながらそう謝罪するのは、もう一人の最優秀生徒であるアルフェリド。
「アルフェリドのお胸ぇ〜〜〜」
 マールの胸から脱出したアーリィは、アルフェリドの胸までふよふよと飛ぶと、すっぽりと胸に収まり、そこで寝息をたてて寝てしまった。
 しょうがないなあと、アルフェリドはアーリィを起こさないように手で支えると、もう一度頭を下げてマールにお詫びとお礼を言う。
「アーリィの件では、本当に、マールさんにはお世話になりました」
 そんな二人の熱々な様子に、マールは恋人が出来た息子を見つめるような、優しい微笑みを携えていた。
「もう、アルちゃんとアーちゃんったら。出会って間もないっていうのに、すでにお熱いんですね〜」
 羨ましいな〜と表情に出しながら告げたマールの言葉に、顔を真っ赤にしながら頭を掻くアルフェリド。
「羨ましいから、私もアルちゃんをお婿さんにしようかなぁ」
 悪戯っぽく笑いながらそう言ったマールに、アルフェリドは思わず笑ってしまう。
「またまたご冗……」
「そうっすよ!ウチらはてっきり」「料理長とアルフェリドさんが」「くっ付くと思ってたんだけどねぇ」
 会話に割り込むように登場したのは、マールの部下である三人のゴブリン達。
「もう、みんな何言い出すんですか。ただの冗談ですよ」
「だってねえ」「絵とか貰って嬉しそうでしたし」「もう、これはほの字だとぅ」
「な、何言ってるんですか!アルちゃんに絵を貰ったときはたしかに嬉しかったですけど、それは母親が息子に絵をプレゼントされたようなもので……。そもそも寮生みなさんは、私にとって子供といいますか、弟や妹の様な存在なので、そんな感情はありませんよ」
 わたわたと弁明をするマールのその言葉に、息子やら弟と表現された男の寮生の大多数は、ぐっさりと心を傷つけられて俯いてしまっていた。
 しかしながら彼女がいるからなのか、アルフェリドはまったく意に介した様子は無い。
「それなら俺もマールさんの事を、第二の母親だと思ってます」
「だったらアルちゃん、私の事ママって呼んでもいいですよ〜」
 さらにはそんな気障な事まで付け足すアルフェリドに、更に冗談でお返するマール。
 種族もばらばらな二人が、本当に仲の良い姉弟か母子のように見えてしまうから不思議である。
「こんなにお似合いだってーのに」「どうしてくっ付かなかったのでしょうか」「謎ですねぇ」
 部下ゴブリンたちは首を捻る。ここまで仲がよければ、魔物の性でくんずほぐれつな関係になっていないと、おかしいはずなのだと。
「皆さんご存じないんですか?マールさんには、思い人がいらっしゃいますよ」
「「「「「えええ!!」」」」
 唐突に告げられたアルフェリドの言葉に、こっそり聞き耳を立てていた人たちも含めて、全員が驚きの声を上げる。
 全員が驚愕してしまうほどに、マールの身辺には男の匂いは無かったからだった。
「もう、アルちゃんてば、それは内緒って……」
「誰でやんすか!」「何処のどいつですか!」「初めてききましたよぉ」
「「「そこんところ詳しく!」」」
 詰め寄ってきた部下や卒業生に寮生と一人二
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