純情ギャルカノバルログに慰められて初体験する話

 駅に程近いラブホテルの一室。
 今、その比較的無難な部屋の無難なベッドの上に、体育座りでどんよりとした空気を振りまく僕はいる。

 僕は柴村(しばむら)ユウヤ。
 バルログの加具土(かぐつち)モカと絶賛交際中だ。
 呼び捨てよりしっくりくる気がして、お互いに「ゆーくん」「モカちゃん」と呼び合っている。

 告白はモカちゃんの方からだ。
 クラス委員長をしている彼女の仕事を手伝ったのがきっかけだ。
 ドジを踏んでばかりの僕は、ほとんど役に立てていなかった気がするけど、曰く「ガラじゃない仕事を押し付けられたわたしを、気遣ってくれたのがうれしかったの……」とか。

 僕のザ・陰キャな見た目のせいで周りからはよく「釣り合っていない」なんて言われるけど、モカちゃんが僕を選んでくれたことは嬉しいと思う。

 今日は初デートの日だった。
 期待に応えたくて、僕一人で今日のプランを立て、モカちゃんをエスコートしたんだけど……





「映画、主演の人が棒読みすぎて話が頭に入ってこなかった……」

「レストランの予約サイトのボタン、最後の一つ押し忘れてた!」

「天気予報は一日中晴れだって言ってたのに、なんで土砂降りになるの!?」





 以上、あまりしたくない回想は終了。

 こうして、僕のちっぽけなプライドは完全に打ち砕かれてしまったのだった。

 それでも、モカちゃんは何も言わず、寄り添ってくれていた。

「……ごめん」

 長い無言の後、どうにか絞り出せた言葉がこれだった。

「なんで?」
「だって、君にいい所を見せたくて頑張ったのに、盛大に空回りしちゃって、散々なデートになっちゃってさ……」

 僕の隣で、モカちゃんが反応する気配がした。

「わたしに、嫌われたって思ってるでしょ」
「……うん」

 バルログが惹かれるのは、高い対人スキルや才能を持ち合わせている人だと聞いたことがある。
 みんなの言うとおり、僕みたいなヤツがモカちゃんを喜ばせるなんて、最初から無理な話だったんだ。
 心がどんどん縮んでいって、息が詰まりそうになる。

「ゆーくん、こっちむいて」

 モカちゃんの声が、深みに嵌りかけていた僕の意識を呼び戻した。
 自然と体育座りが崩れる。
 身体を向けるなり、モカちゃんが抱き着いてきた。
 僕の背中に腕が回され、彼女の柔らかさを上半身で感じ取る。

「初めてのデートなのに、わたしのこと喜ばせようって頑張ってくれたんだよね?」
「でも……」
「でもでもだってはおしまい。今日は、とっても嬉しかったよ」

 モカちゃんが腕をほどいて、僕を真っすぐ見つめながら続ける。

「ゆーくんの気持ちは、ちゃんと伝わったから。今度デートする時はさ、一緒にどこ行くかとか計画立てて行こうよ。ね
#9829;」

 最後に小首をかしげて満面の笑み。

 やっぱり彼女には太陽みたいな笑顔が似合う。
 モカちゃんが嬉しいと、僕も嬉しくなる。

「……好き」

 思わず口からこぼれ出た言葉がこれだった。

「えへへっ……わたしも、ゆーくんがだーい好きだよ
#9829;」

 もう一度、ぎゅっ。
 こうしてモカちゃんと触れ合っているだけで、胸が幸福感で満たされていく。

 再び沈黙が訪れる。
 それはこの温もりを分かち合うための沈黙だった。
 自然と顔と顔が近づいていき、何の前触れもなく唇と唇が重なった。

 それが世間ではキスと呼ばれる行為であることを理解するのに五秒。
 僕達にとってこれが初めてのキスであることに気付くのにさらに五秒。

 その先をしたことなんて、当然ない。

 始まりの時と同じように唐突に離れる。
 口づけは思っていたよりも呆気なく終わった。

「僕達……キス、しちゃった……」
「ファーストキス、だね……」

 初めてするキスは、モカちゃんの僕への「好き」が全身を駆け巡って心臓を滾らせ、僕のモカちゃんへの「好き」を確かなものにしてくれた。
 全身が、これから起きることへの期待で昂っていた。

「ねえゆーくん、せっかくラブホに来たんだよ? もっとやりたいこととかないの?」
「まだ外は明るいよ?」

 時刻は午後14時32分。
 僕達は、緊急避難的にここに来ただけだ。
 事に及ぶにはまだ早いように思える。

 だが、モカちゃんが次に発した言葉は、僕の理性を焼き切る最後の一押しには十分すぎた。

「今日はね、ゆーくんのいい所、いっぱい見つけちゃった。
 映画の途中で寝ちゃった時、わたしが寄りかかってもゆーくんは終わりまでじっとしててくれて、
 お昼がサ×ゼになっちゃったけど、ゆーくんは何も言わずにお金を出してくれて、
 雨が降って来ちゃったら、すぐにバッグを傘代わりにしてくれて……
 わたし、ゆーくんのこともっともっと好きにな
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