ボクっ娘幼馴染の龍神様と再会したら、プロポーズされてイチャ甘初夜を迎えちゃった話

 次の停留所を告げるバスの案内音声に、俺は我に返った。
 眠っていたわけじゃない。ただ放心状態で窓の外を眺めていただけだ。
 機械的に降車ボタンを押し、今日何度目とも分からない溜息を吐く。

 俺の名前は須藤直彦(すどう なおひこ)。
 この春に大学を卒業したばかりだ。
 秋口に内定をもらい、卒論も無事提出、さあ後は卒業式を残すのみとなった三月、不幸は起きた。
 なんと就職先の会社が倒産してしまったのだ。
 当然、あてにしていた社員寮への入居も無くなった。
 泥縄を承知で就活を再開するがそう簡単に内定などもらえるはずがなく、次の住居がそう都合よく見つかるはずもない。
 こうして新たな就職先も、新居も得られぬままの卒業となった。
 とどめに今年は学生寮の希望者が多く、後が詰まっているからとっとと出ていけとのお達しが来た。
 そんなわけで俺は追い出し同然に部屋を引き払い、バイト先からも暇をもらい、失意の帰郷となったのだった。

 雑木林を貫く道端にぽつんと立つ停留所でバスが停まり、乱雑にドアが開く。
 運賃箱に小銭と整理券を投げ入れながら、俺はのそのそと故郷の山村に降り立った。
 潰れかけの待合小屋を尻目に歩き出す。

 バス停から実家までは15分ほど。
 林を抜け、田畑しかない景色の中を歩く。
 しだいに落ちていく西日に照らされながら、ただ機械的に歩く。
 あまりに将来が暗すぎて、心が何も感じなくなっていた。

 やがて俺は周囲を屋敷林に囲まれた家に辿り着いた。
 くすんだ白の壁と家紋が刻まれた鬼瓦が特徴の、大きな家だ。
 高祖父の代から補修と改築を繰り返した結果生まれた、現代のテセウスの船。
 それが俺の実家だ。

 玄関の前で一度深呼吸してから、チャイムを鳴らす。
 すぐに奥から走ってくる音が聞こえる。
 親に連絡はしてあるし、荷物は先に送っているから、少なくとも驚かれることはないはずだ。

「はーい」
「ただいま」

 引き戸が開くと、そこに母がいた。
 どうやら仕事を午前中で切り上げてくれたらしい。
 促されるまま家に上がる。
 バッグを自室に置くのもそこそこに、休息がてら居間で母と話す。
 内容はこれまでのおさらいと、これからの方針。
 当面はここで暮らしながら新しい住居と仕事を探すつもりだった。
 俺のために用意してくれたらしい菓子は、「途中で買ったのがあるから」と断った。
 とりあえずの事務連絡を済ませたところで、母がふと口を開いた。

「そういえば、龍ちゃんがあなたに会いたがってたわよ」
「龍ちゃんって、まさか龍華が?」
「そう。ちょっと電話してあげたら、帰ってきたらすぐ言って!ってすごく興奮してたわ」

 龍華。
 その名前は俺の頭の中で懐かしくリフレインした。

 辰崎龍華(たつざき りゅうか)。
 俺と同じ日に生まれた、幼馴染。
 この村に伝わる龍神信仰、その宗教的中心とも言うべき龍神の一人娘。

 ……などと言うと近寄りがたい印象を受けるだろうが、実際は明るく社交的で活発な、親しみやすい女の子だ。
 俺の家とは家族ぐるみでの付き合いがあったおかげで、小さい頃は一緒に野山で遊び回っていたものだ。
 短大を出た後は村に帰ってきて、次代の龍神となるべく本格的に修行中だと聞いていた。

 この際だし、龍華の所に顔を出しておくのも悪くない
 後ろ向きの思考の中に、ふとそんな情動が生じた。

「んじゃ、今から行ってくるわ」

 一言言って立ち上がる。
 彼女と会えば、前を向ける気がした。





 この村は周囲を大きな山に囲まれているため、意外なほど暗くなるのが早い。
 家を出てすぐにライトが必要になった。

 車庫から引っ張り出した自転車を走らせ、俺はある山の麓に建つ神社へとやって来た。
 辰崎家の自宅を兼ねた神社だ。その奥にある神域を守るように建っているのだという。
 申し訳程度の駐輪場に自転車を停め、鳥居をくぐる。

 入ってすぐの社務所の窓口に、よく知る顔の龍が見えた。何か片付けをしている。
 年賀状や暑中見舞いのやり取りがあった位で(龍華は機械オンチだ)、直接顔を合わせるのは中学卒業以来だ。

「よっ、龍華」
「…………!」

 その時の龍華の表情を、俺はきっと忘れないだろう。
 窓口の反対側に誰が居るのか理解した瞬間、彼女の顔が目に見えて明るくなった。

「ナオくん!」

 祈願待合室への出入り口の方を指差すと、アルバイトらしいパイロゥと白蛇に後を任せ、奥へと引っ込んでいった。
 出入り口の引き戸を開けると、すぐに龍華が出迎えてくれた。
 『関係者以外立入禁止』のプレートが貼られたドアをくぐり、渡り廊下を連れ立って歩く。

 俺達の間に言葉はなかった。
 何を言えばいいのか分からなかった。
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