その日は朝から、リノは機嫌が良かった。
なぜ分かるのかって?
リノは機嫌が良い時は尻尾を思いっきり左右に振る癖があるからだ。
彼女のフルネームは稀宮(まれみや)リノ。
種族はマレフドラゴン。
かわいいかわいい、ぼくの許嫁。
彼女と将来を誓い合った、たぶん世界一の幸せ者なぼくの名前は綴(つづり)ミツル。
……言うな。自分でも"つ"が多いなって思ってるんだから
親同士が勝手に決めた結婚だけど、お見合いの席でぼくらは一目で恋に落ち、数十分後に親達が様子を見に来た時には完全なバカップルと化していた。
さて、ここはぼくらが通う学園の屋上。
時刻は丁度お昼休み。
いつものようにベンチでお互いのお弁当を"あ〜ん"しあって、ひとしきりラブラブオーラをふりまき終えた後のことだ。
リノは朝からずっと尻尾を振っていた。
その回数が453回――朝のホームルーム時点でだ――を超えたところで、ぼくは数えるのを止めていた。
コボルドみたいでかわいいなどと萌えている場合ではない。
リノはマレフドラゴンだ。
尻尾も当然、コボルドのようなフサフサ尻尾ではない。
というか、ブンブンいう音は絶対ソニックブームだ!
いい加減止めないとまずい。
「ねえリノ、そろそろ何があったんだか教えてくれよ」
実はこの質問、本日で3回目である。
前の2回はいずれも、「うふふ〜」と頬を緩めるばかりで、全く会話にならなかった。
「ミツル様、よくぞ聞いてくださりましたわ!」
「いや、朝から聞いてたんだけど」
ぼくのツッコミには耳も貸さず、立ち上がる。
実を言うと、何を言うのか少しだけ察しがついていたのだけど。
「お母様達から、婚前交渉のお許しをいただきましたわ!」
リノはふんすと薄い胸を張って答えた。
そう、お見合いから半年、ぼくらは未だに一夜を共に過ごしたことがなかった。
リノの言葉の意味を理解するまでの数秒間でこれまでを振り返る。
あっさり婚約成立したあの日、ボタンをひとつふたつ外したところでぼくらを止めた両親たちは、こともあろうに『許可するまでは清い関係でいろ』という命令を下した。
お見合いに乗り気でなかったはずの子供たちの態度急変に動揺し、冷静に考えさせようとしたというのが理由らしい。絶対に違う気がするけど。
お互いに名家の跡取りだ。
様々な事情が複雑に絡み合うこの時代、その場のノリと勢いだけで結婚し、あとで『不都合が生じました』では済まされない立場だというのはぼくらもよく分かっていたので、渋々ながら同意したのだった。
当然、寝起きもお互いに自分の家だ。
おまけにぼくらが通う学園は、『学園内での性行為は厳禁』を始めとするお堅い規則に定評がある。
まあおかげで朝起こしに来たらタイミングが悪かった的なあれやそれやや、お弁当を通じて料理が上達していく姿を見守る(意訳)といったラブコメあるあるシチュエーションをスキップせずに経験できたのだけれど。
そんなわけでぼくらは、健全なイチャイチャから先に進めない哀しみを自らの手で慰めつつ、この半年間を過ごしてきたのだった。
数秒経過。回想終わり。
ぼくは言葉の意味を理解すると同時にベンチから立ち上がり、リノに飛び付いていた。
「だと思った。リノ!やっぱりきみも許可をもらったんだね!」
「ええ、ずっとこの日を待ち望んでおりましたわ!……って、もしかして、ミツル様もお許しをいただいておりましたの?」
実は昨晩、ぼくも両親から呼び出され、厳かな態度で婚前交渉の許可を言い渡されていたのだ。
いや、あの時は内容で雰囲気が完全に台無しだったよ。
ルンルン気分のリノがかわいくて言い出せなかった。
「そうだけど……」
「それを早く言ってくださいませ!これでは勿体ぶったわたくしが、とんだ愚か者になってしまうのでなくて!?」
途端に機嫌が悪くなるリノ。
だが、ぷんすかという擬音が似合うむくれ顔はまったく怖くない。
何をやってもかわいいが来てしまうのは、きっと惚れた弱みというやつだ。
「ごめんごめん、リノがかわいかったんだも、のっ!」
「なっ!?人前で抱っこはおやめなさ、んむっ
#9829;」
脇を掴んで抱き上げられたことにじたばたして抗議するリノの口を、キスで塞いで黙らせる。
屋上に上がってきたばかりらしい白澤が、いちゃつくぼくらを呆気にとられた表情で見つめていた。
●
その日の夜。
相談の結果、今夜はぼくの家で過ごすことに決まった。
やるべきことを片付けた後。
先に風呂に入ってしまったリノに「用意をいたしますので、待っていてくださいませ」と言われるまま、一人寂しく風呂に入る。
いつもより念入りに身体を流すのは、たぶんリ
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