04「サイクロプスと操り人形(後編)」

「コースケくんっ! 壊れたら何度でも私が修理するっ! だから……前に出てっ!!」

 あんなに大声を上げたのは、いつ以来だろう? それも、大勢の人が見ている前で。
 でも、あの時は恥ずかしいとか、ヒトツ目の自分が目立つと気味悪がられるとかなんて、これっぽっちも思ってなかった。彼の背中を押してあげたいという気持ちで頭の中が一杯になり、半ば無我夢中だった。
 だから、自分が組み直したメガパペットという巨大なカラクリ人形が試合に勝ったこと以上に、彼と一緒に二回戦へと進めたことが嬉しかった。

 そして「ホノカちゃん」と呼びかけられたとき……どうして自分がここまでかかわってきたのか、その理由に気づくことができた。

 そっか……コースケくん、あの人に似てるんだ──

 ずっと心の奥に仕舞い込んでいた、思いと合わせて。

<●>

 第八回全日本ロボTRY選手権、地区予選会二回戦。
 アナウンスとともに、二体の人型重機──メガパペットがバトルステージに上がり、各々の待機線へと歩を進める。

「相手は雁ヶ首大学のロボット研究会……大会の常連さんだよ」
「……勝てる?」
「勝つよ。ホノカちゃんが整備してくれたコイツで」

 隣にいるサイクロプス娘にそう答えると、甲介は前を歩く自分の機体に視線を向けた。

「いっけぇコースケ! そこのプレイヤーごとぶっとばせ〜っ!!」
「……それやったら一発で反則負けになるで、ナギ」
「なんだと!? ええいっ、この私がいる限りそんな真似は絶対にさせんぞっ!」

 防護フェンスの外側には、今日も大勢のギャラリーが応援に集まっている。
 二人が横目でうかがうと、雁ヶ首大ロボ研の女性プレイヤー(の胸)を親のカタキとばかりにヒトツ目で睨みつけながら声を上げるゲイザー娘ナギに、彼方が苦笑を浮かべてツッコんで、ヴァルキリーのルミナが眉を吊り上げまくし立てていた。その横で、文葉がスマホ片手に手を振ってくる。

「…………」
「……くすっ」

 友人たちの平常運転な姿に、肩の力がいい具合に抜けた。
 甲介たちの機体〈TX−44改〉に相対するのは、卵型の頭部が特徴的な黄色のメガパペット。登録機体名は〈キクモン03〉。胸と両肩のダメージマーカーの色は紫。
 試合開始のコールが響き、スタートシグナルの色が変わる。二体は同時に待機線を蹴り、真っ正面からぶつかり合った……
 …………………………………………



「Winner! チーム・モノアイガールズ!!」



「なんで……あんなポンコツに──っ」

 胸と右肩のダメージマーカーの色が変わったまま撤収されていく〈キクモン03〉を一瞥し、雁ヶ首大ロボ研の女性プレイヤーは苛立たしげにつぶやいた。
 口々になだめようとする取り巻きたちの声を無視して、相手チームの機体を睨み付ける。

「…………」

 僅差だった。向こうも左肩のマーカーの色が変わり、そこから肘を逆側に曲げられた左腕がぶらぶらと力なく垂れ下がっている。ツギハギな見た目もあって、相手の腕を潰したその瞬間に「勝った!」と油断、慢心してしまったのが自分たちの敗因だったのだろう。
 まさかカウンターで、胸元に頭突きしてくるとは思いもしなかった。
 ふと、向こうのセコンドと目が合った。水色の肌、額に生えたツノ、マンガみたいな大きなヒトツ目の人外少女──魔物娘。
 焦ったようにお辞儀され、目を逸らされた。

「……っ!」

 化け物女がっ……と悪態をつきかけ、すんでのところでそれを飲み込む。
 マーシャルや大勢のギャラリーが見ている前でそんなことを口走ったら、負けたくせにみっともない、見苦しい、大人げない、あの§A中と同類かよ──と逆にディスられ、こちらがいらぬ恥をかくだけである。
 彼女は少し悔し気に溜め息を吐き、踵を返した。

<●>

 次の試合は一週間後。それまでに機体を修理し、動かせるよう整備しなければならない。
 いつもの部室棟の横で、甲介とホノカはメガパペット〈TX−44改〉の修理を始めていた。
 ナギたちは部活等で不在。代わりに手伝ってくれているのは──

「よっ、おっととっ……おーいホノカぁ、これどこに置くんだ?」
「こっち。この真ん中にゆっくり置いて」
「あいよっ」

 頭ひとつ高い身長、黄緑色の肌、赤い髪、バンダナを巻いた額から生えた二本のツノ。
 機体から取り外された左肩のカウリングを片手に持った体操服姿のオーガ娘サキが、ホノカが指差すブルーシートの上にそれをそっと下ろした。「……意外と軽いんだな。巨人の鎧だからもうちょっと重いもんだと思ってたぜ」

「あんまり重いと関節部に負担がかかるからね。バッテリーの消耗も早くなるし、防御力を損なわないギリギリまで軽量化してるんだ」

 機体の首のところに跨がって頭部
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