03「サイクロプスと操り人形(前編)」

 「チナツのゆるふわラジオカフェテリア」っ! 今日最初のおたよりは、更紗市のラジオネーム・MS−07さんから!

「こんにちはチナツさん。番組、いつも楽しく聴いています」

 はいこんにちは〜。いつも聴いてくれてありがとう!

「先日、私の幼なじみでもある親友に、ついに彼氏ができました♪」

 おー、それはめでたい。どんどんぱふぱふ〜っ!

「本人は『アイツがあんまりしつこいから、仕方なしに付き合ってやってるんだ』とか言い張ってますが、彼氏と一緒にいる時はうねうねしながらすっごく嬉しそうにしているし、ひとりで机に座っていても、ときどきニマニマきししって思い出し笑いを浮かべてます。この前そのことを教えてあげたら、絶対違う見間違いだと全力で否定されました。……これってツンデレって言うんですね?」

 うんうん、すっごくわかりやすい友だちだね〜。あと、それはツンデレとは言わない……のかな?
 まあ単に意地はって照れてるだけだと思うから、見ないふりしてそっと見守っておこうよ。それが親友ってもんでしょ?

「ちょっとへそ曲がりな親友も、最近はクラスのみんなとも打ち解けられるようになって、これも彼氏効果かなって思っちゃいます。それに、実を言うと以前に彼女が背中を押してくれたから、私も大好きな人と付き合うことができたわけで……その時は自分だけいいのかなって後ろめたさもあったのですが、今はふたりともパートナーができて、ふたりして毎日とってもと〜ってもハッピーですっ♪」

 …………あーハイハイごちそうさま。なんだ、MS−07さんも彼氏持ちだったんだ。前にも似たような出だしのお便りがあったから、またヒトリ身の愚痴が続くのかと思っちゃったぜい。
 それにしても、まー、なんというか、お互い仲がよさそうのはいいんだけど…………ああもうこの際だ。ふたりしてこのまま彼氏と合同結婚式挙げちまえっ♪

 けどこのふたり、愛がけっこう重たそう。……男子たち、大丈夫〜?(笑)



─ megapuppet ─

 二十四時間後の近未来。
 ゲイザー娘のナギと、関西弁少年彼方が付き合い始める前の話。

「……ひうっ!?」

 玄関の階段を一段とばしで駆け下りたら、思った以上にスカートが翻ってしまい、そのくすぐったさに、あわてて裾を両手で押さえて撫で付ける。
 久しぶりに履くようになった膝丈のスカートは、ヒラヒラしていてやっぱり落ち着かない。下にスパッツを着けていても、慣れないものは慣れないし、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 ちらっと目を動かしてうかがうと、こっちを見ていたらしい何人かが、さっと目を逸らした。

「…………」

 まわりの女の子たちも同じ格好──制服を着ているから、余計に自分の異質さが目立っているような気がしてしまう。

 青い肌でヒトツ目、額にツノが生えた魔物娘な自分の。

 放課後、いくつもの運動部がそれぞれの場所で活動を始めている。
 同じ魔物娘である幼なじみの親友も弓道部とやらに入部してしまったので、なんとなく置いてきぼりにされたような寂しさも感じていたりする。
 異形の女生徒は溜め息を吐くと、防球フェンス越しにグラウンドをぼんやりと眺めた。

 ──ナギちゃん、こないだまで「この世界でたった二人っきりの単眼種だから、お互い支え合って生きていこうな」とか言ってたのに……

 その親友も、のちに同じことを思うのだが、今の彼女には想像もつかないこと。
 うらやましくもあるが、ヒト付き合いの苦手な自分は部活動なんてとてもできそうもない……なので、放課後はひとり目的もなく、グラウンドの端をぶらぶら歩くのが日常になりつつある──

 桜の花が散って、入れ替わるように若葉の緑が目立ち始めた頃。
 高等部一年B組のサイクロプス娘ホノカはその日、彼とそれ≠ノ出会った。

<●>

 神話やおとぎ話で語られる魔物の要素を持つ少女、あるいは少女の姿をした魔物──魔物娘がこの世界に現れたのが去年の冬。彼女たちは今年の四月から、私立明緑館学園の高等部一年生としての生活をスタートさせた。
 自分たちを目の敵にする主神教団も存在せず、加えてまわりには同世代?の男子がいっぱいという、ある意味恵まれた♀ツ境下ではあったが、十七人の魔物娘たちは身元引き受け人でもある明貴学園長に「まずこの世界のことをよく知って。(オトコ探しは)それからでも遅くない」とクギを刺され……もとい優しく諭されて、表面上はおとなしくしている。
 もっともそんな魔物娘たちに対して「きっと何か良からぬことを企んでいるに違いない」と邪推する者もいれば、「なんで人を襲わないっ、貯水池に謎ウィルスを投げ込まないっ、幼稚園バスジャックをしないんだっ!」と、わけのわからないことで憤っている者たちもいたりする……
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