ちっちゃな同居人

 ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ──

 枕元で鳴り続ける魔導目覚ましを尻尾の先で叩いて黙らせると、ベッドの主──サキュバス女子高生のナオはむくりと起き上がり、腰の羽根をパタパタさせながら大きく伸びをした。

「む〜っ……ふあぁ〜」

 そのままふらふらとベッドから出ると、タンクトップにショーツ一枚という裸婦……もといラフな格好のまま、フローリングの床でペタペタ足音をさせて洗面所に入り、歯を磨いて口をすすぎ、顔を洗う。
 部屋着に着替え、魔導トースターで焼いた食パンにマーガリンを塗ってを皿に乗せ、魔導コーヒーメーカーで淹れたコーヒーをマグカップに注いでリビングに戻ると、座卓に置いて食べ始める。
 手にしたトーストをもしゃもしゃ頬張っていると、置いてあった魔導スマホが着信音を鳴らした。

「あ……ムキコからだ」

 画面の表示で親友であるグレムリンの名前を確認すると、彼女はそれを尖った耳に当てた。「もしもしおはよー、どしたん? 今日のショッピング、まだ時間が…………はぁ!? 昨日急にカレシができただとっ!? 夜中からヤリまくって20ラウンド目に突入するぅ!? ……と、とにかくおめでとう、っていうか……え、今日ドタキャン? ……って、まあ、そんな事情なら仕方ないか。……うん、うん、じゃあ、また明日学校で──」

 通話が終了し、ナオはそのまましばし固まっていたが、やにわに立ち上がると足元にあったクッションをつかんで、思いっ切り壁に叩きつけた。

「チクショー羨まし過ぎっぞバクハツしろおおおおおっ!!」

 まあ、魔物娘がそっちを優先するのは仕方がない。
 力一杯叫んで少し気が晴れたのか、彼女はその場にぺたんと座り込んだ。

「あー、いきなりヒマになった……」

 今日は休日。さて何をしようかと天井を見上げた時、玄関の魔導チャイムがピンポーンと鳴らされた。

「ハーピー便のお届けで〜す」
「ほいほ〜い」

 スリッパを鳴らしてリビングを出て、玄関で荷物を受け取る。

「父さんからだ……なんだろ?」

 ナオの父親は仕事で魔界に赴任、自分と同じサキュバスの母親も当然のように一緒に着いていき、高校に入学したての彼女は家で一人暮らしを満喫中である。
 ハーピー便のロゴが印字された小包みを開けると、緩衝材に覆われた白い化粧箱が中に入っていた。
 蓋を開けてみると……

「何これ? ……フィギュア?」

 箱の中に収められていたのは、15cmほどの大きさの、小さな女の子の人形だった。

「父さんったら、何のつもりでこんなの送ってきたんだろ……?」

 四肢と胸元に戦車のような装甲が施されたそれを取り出し、首を傾げるナオ。どう見ても女の子向けじゃない、その手の男子が喜びそうなデザインだ。

「……あ、でもここいらは柔らか素材なんだ」

 そう言いながら、人形の頬を指先でつつく……と、その時彼女≠フ目がパチリと開いた。

「わっ!?」

 思わず取り落としそうになり、わたわたおたおたしてしまうナオ。
 人形は驚く彼女の手から座卓の上に飛び降りると、居住まいを正してその顔を見上げた。

「LC−06テストタイプ、起動しました。……初めまして、ナオ」
「え? は、初めまし、て? ……ってなになに? なんなのいったい? フェアリー──じゃないよね? リビングドール?」

 びっくりしたのもそこそこに、興味津々で問いかけるナオ。
 人形の少女はかぶりを振ると、胸に手を当てて答えた。

「いいえ、私はオートマトンです。ナオのお父様が勤めるファンタジー・アドヴァンス社で開発されました」
「……マジ?」

 レア中のレア魔物娘、オートマトン。旧魔王時代の遥か以前に滅亡した古代文明の産物である彼女たちは、今の魔導技術で新たに作り出すことはできないはず。

「私たちは現存する旧時代のオートマトンを解析し、不明な部分をゴーレムの製法やリビングドール化のプロセスで補って造られました。技術的限界で、このような妖精サイズなのですが」

 その名もFairy Automaton Girl、略してFA──

「だあああ〜っ!! そっ、それはともかくっ、な……なんでうちに送られてきたの?」

 それ以上はイケない……もとい、いけない。
 なんだかいろいろマズいような気がして、ナオはあわてて話をぶった切って問いかけた。

「ハーピー便でですが」
「いやそうじゃなくて、理由の方」

 あ、この子天然だ……とか思いながら、問い直す。

「はい、ナオのお父様から言われました。娘と一緒に生活して魔物娘のなんたるかを学習せよ、と」
「もう、だったら前もって連絡してくれればいいのに……」

 憮然としてつぶやくナオだったが、不安げにこっちを見上げる小型オートマトン少女の視線に苦笑を
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