閑話その3「まもむすばんぱく」

 ここだけ2025──

ナギ&彼方 東ゲート広場

「Wao! Mono eye!?」
「Really? Oh! MAMONO MUSUME!」
「いえーす! あいむ、げいざー! ないすちゅみーちゅー!」

 夏の大阪、関西万博夢洲会場。

 ヒトツ目娘に遭遇して驚く外国人観光客に向かって、当人のナギはどこぞの愛すべきアホトラマンみたくベタベタのジャパニーズイントネーションで手を振った。隣で背の高い眼鏡男子──パートナーの彼方が「何やっとんねん」と、呆れ混じりのため息を吐く。

「Myaku Myaku girl!」
「誰がミャクミャクだぁ!?」

 今日のナギは青地の浴衣を着て、関西万博公式マスコット・ミャクミャクの赤い部分を模したカチューシャを頭に載せていた。おまけに自前の目玉付き触手を背中でゆらゆらさせているのだから、そう言われても仕方がない。

「ま、似てるっつったら似てるわな」
「なんだよカナタまで〜っ」

 後ろで座っている「いらっしゃいませミャクミャク像」と見比べられ、ゲイザー娘は合わせたわけじゃないんだけど、と口を尖らせる。……が、すぐにニヤケ顔になるあたり、ミャクミャク呼ばわりを心底嫌がっているわけではないようだ。
 そのまま彼方が差し出した手を取り、腕と触手をするりと絡ませる。

「せやけど、またなんで浴衣にしたんや?」
「バンパクって要はお国自慢のお祭りなんだろ? だったら和服でアピールしなきゃじゃん♪ ……お、あのおっちゃん帯の代わりに腰痛ベルトしてるw」
「指差すなや失礼やで」

 まわりに目をやれば、何人かの男女が浴衣姿でそぞろ歩いていた。かく言う彼方もナギに押し切られ、松葉色の浴衣にデイパックといった格好だ。

「ほらほらさっさと行こうぜ。見たいパリピオンがいっぱいあんだから」
「パビリオン、な」

 絡めた腕を引っ張って、きししと嬉しそうに笑うナギ。つられて彼方の顔にも笑顔が浮かんだ。

「……てかさ、ミャクミャクって発表当初はいろいろネガティブなコト言われてたんだろ?」
「ん、まあ、せやけど見慣れたら可愛くなるやろとも一部で言われとったな。実際そうなったし」
「見慣れたら可愛い……か。そこはアタシによく似てるな、きしし」
「なんでやねん」



樋口ファミリー 大屋根リング下

「パパ〜、ママ〜、早く早くっ」
「ルリちゃん、あんまり離れたら迷子になりますよ〜」

 くるりと振り返って嬉しそうに手招きする水色サマードレス姿の瑠璃に、キキーモラ娘のイツキは日傘をたたみながら微笑んだ。今日はいつものメイド服ではなく、ノースリーブの白いAラインワンピースの上から青色のストールを羽織っている。
 関西万博の目玉のひとつである高さ二十メートル、一周二キロメートルの大屋根リング。世界最大の木造建築物であるその下は、海からの風が通り、日陰と涼を求めて大勢のヒトで賑わっていた。

「やれやれ……こらっ、イツキさ──ま、ママに迷惑かけるんじゃない、ぞ」

 我が子をたしなめようとした浩幸は、イツキに肘で軽く小突かれて、あわてて言い直す。
 周辺パビリオンの入場待ちの列がリング下にも並んでいて、その移動に巻き込まれたらはぐれてしまうかもしれない。
 イツキは素直に戻ってくる幼な子に優しい眼差しを向けると、

「ルリちゃん、お父さんとお出かけできるのがよっぽど嬉しいんですね」

 警察官という仕事柄、なかなかまとまった休みが取れないパートナーを気遣う。
 だが、浩幸はゆっくりと首を横に振り、若妻の顔を見つめて微笑んだ。「……いや、家族三人みんなで来れたことが嬉しいんじゃないかな」

「ヒロユキさん……」

 そう返されて、ああ、このヒトを選んでよかったと改めて思うイツキ。
 甘えるように腰に抱きつき笑顔で見上げてくる愛娘に、彼女もまた顔をほころばせる。
 ひとつの家族を包む、穏やかな空気。
 三人は瑠璃を真ん中にして手をつなぎ、ゆっくりと大屋根の下を歩き出した。

 と、その手が浩幸から離れる。

「ママ見て! ミャクミャクいっぱいいる!」
「ほんとですね。ぬいぐるみに髪飾り、シャツやスカート、カバンまで揃えているなんてすごいです」
「…………」

 ミャクミャクグッズで身を固めた女性──おそらく万博リピーター ──を指差す我が娘に、あとで絶対ぬいぐるみとかねだられるんだろうなあ……と苦笑を浮かべる浩幸であった。

 がんばれ、お父さん。



ホノカ&甲介 ガンダム立像前

「ううう……ま、また、競り、負けた……」

 スマホの画面にずらっと並んだ赤いバツマークに、白のTシャツにショート丈のデニムオーバーオールを合わせて頭にキャスケットを被ったサイクロプス娘ホノカは、顔の真ん中にある蒼いヒトツ目をうるうるさせた。
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