01「進撃の女子高生ゲイザー(前編)」

 「チナツのゆるふわラジオカフェテリア」っ! 続いては更紗市のラジオネーム・恋する瞳さんからのおたより!

「聞いてくださいチナツさんっ──」

 はいは〜い、聞いてますよー。

「実はアタシにはちっちゃい頃からずっと仲のいい親友がいるのですが、こないだその娘(こ)にとうとうカレシができたんですっ!」

 おめでとう。よかったね。でも先越されて、嬉し、さみしいよね〜。

「どっちかっていうとヒト付き合いの得意な方じゃない親友に恋人ができて、そのときはアタシも一緒に喜んだんだけど……それからというもの、彼女はところかまわずそのカレシとイチャイチャするようになって、だんだんうっとうしくなってきました」

 あー、あるよねあるよね〜。しょせんは女の友情なんだよね。

「アタシとしては、今でも、そしてこれからも親友のつもりなんだけど、なのに朝から教室でイチャイチャ、休み時間おきにイチャイチャ、お昼でもイチャイチャ、放課後もイチャイチャ……あ〜もうやっぱ腹が立つ! かのお禿様のアニメで言ってた『ボーイフレンドがいない連中のことも考えてやれ』というセリフを紙に書いて、マジであのでっかい目ん玉に貼り付けてやろうと思いますっ──」

 う〜ん、気持ちは痛いほど良く分かるけど、それやったら幸せ遠のくよ。経験者からのアドバイス。
 まあ、ほっといてもそのうち落ち着いてくんじゃないかな〜。それに、バカップルって下手に邪魔すると、自己完結悲恋型(ロミオとジュリエット)に悪化して、余計うっとーしいよ。
 それよか恋する瞳さんにも好きな人、いるんでしょ? それだったらイチャイチャ見せつけられた分、告白とか協力させようよ。親友なんだから。



 ……あ、それから正しくは「ボーイフレンドが」じゃなくて「ガールフレンドが」だからね、そのアニメのセリフ──



─ stargazer ─

 二十四時間後の近未来。

「……ねえコースケくん、ほんとに私で、いいの?」
「ん? 何が?」
「だって私……魔物娘、だよ?」
「なんだよ今さら」
「ツノ生えてるし、肌の色だって青いし」
「十七人も魔物娘がいるんだから、ツノなんか当たり前だし、皮膚の色もそれこそ十人十色だよ──」
「目だって……一個だし」
「そういうの全部引っくるめて受け入れるって決めたんだ。他の人がなんて言おうと、僕はホノカちゃんのこと大好きだよ。……ホノカちゃんは僕のこと、好き?」
「私も……コースケくんのこと、大、大、大〜好きっ!」
「ホノカちゃん……」
「コースケくん……」

「…………」

 季節は初夏。異世界からやって来た魔物娘たちを受け入れたことで、最近何かと話題の私立明緑館学園。
 甘々な空気を放っていちゃつく、この世界での魔物娘と人間のカップル第一号、青肌単眼一本角のサイクロプス娘・ホノカと童顔の男子生徒・海老川甲介(えびかわ・こうすけ)。教室にいる生徒たちは生暖かい、あるいは砂(糖)吐きそうな表情を浮かべ、一部の女子たちは眉をひそめて「何よ〜、あれ〜」と互いにひそひそ耳打ちし合い、男子たちの何人か──DT、彼女なし歴=年齢──は嫉妬に目の幅涙を流しながら、

「今日も一緒にお昼食べようか」
「うん♪」
「「「…………(ドンドンドンドンドンッ──!)」」」

 ……2の意味≠ナ壁ドンを繰り返していた。
 ホノカは背中まで伸びた藤色の髪をお手製っぽいバレッタでアップにして、まわりの女子たちと同じ高等部の制服──襟と裾に水色のラインが入った白のブラウス、襟元にエンジのスクールリボン、チェック地のプリーツスカートを身につけている。
 サイクロプスは他の魔物娘と違い、寡黙でヒト付き合いが悪く、単眼も合わせて表情も乏しいとされており、実際、彼女も学期初めの頃はそんな感じだったのだが、甲介と付き合い出した途端、今までの無愛想っぷりはなんだったんだと言わんばかりに言動が可愛らしくなり、今ではパートナーともども素敵な?バカップルならぬマ<Jップルと化していた。

 ──ウゼえええええっ! 力いっぱいウゼえええええ……っ!!

 そんなホノカと甲介に、見た目も分かりやすく切歯扼腕する女子が一名。
 文字通りギザギザ歯で歯ぎしりし、触手を自らの腕にギュッと巻きつけて……

 ──そりゃアタシら魔物娘は、ツガイができたらソイツのことしか考えられなくなる……って母さんも言ってたけど、そこまで見せつけるみたいにイチャコラしなくてもってああもううっせーぞそこの非モテ男子どもっ!!」

 ……途中から思わず声にして怒鳴ってしまった。

 か〜べ〜どん、かべどん、かべどん、かべどん……しかしはっきり言って隣の教室に迷惑なので、そいつらは心あるクラスメイトたちによって「嘆きの壁」から引き放される。

「…………」


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