「ただいまより第八回ロボTRY全国大会・更紗地区予選会、決勝戦を開始します!!」
中央公園に設営された仮設闘技場。時刻は夕方。
アナウンスに観客たちが一斉に騒めき、映画「GUNHED」のスコア(楽曲)「Island 8jo」が鳴り響く中、二体の人型重機が左右のパドックからバトルステージへとゆっくり歩を進める。
「ロボの出囃子なら、でーんでんでん、でんでどんどんってのも捨てがたいよな♪」
「『DECISIVE BATTLE』な。出囃子ゆーなや怒られっぞ……」
一方は空色──スカイブルーとホワイトに塗り分けられた機体。
頭部の額に当たるところから、斜め上に真っ直ぐ伸びた一本ツノ。腕と脚の形状が左右で違っていて、重量のバランスをとるためにカウリング(外装)の一部がハンドメイドのものに換装されている。両肩と胸部にあと付けされたダメージマーカーの色はオレンジ。
「明緑館学園、チーム・モノアイガールズ!」
もう一方は龍の意匠を施された、蒼玉色──サファイアブルーのカウリングを纏った機体。
大きく開いた龍の口内に埋め込まれた顔、太めの腕と脚に生えた台形型のフィン。そのいわゆるスーパー系≠ネ見た目は、対戦相手と(いろいろな意味で)真逆の印象を植え付ける。共通の箇所に取り付けられたダメージマーカーの色は白。
「深山高校工業科、チーム・蒼の龍騎士!」
ステージ中央に設けられた待機線に歩を進め、向かい合う二体のメガパペット。観客席のボルテージが上がっていく中、それぞれの機体の斜め後ろで有線操縦器(プロポ)を手にしたプレイヤー二人──海老原甲介と志度愁斗の間には、逆に冷えたような緊張感が高まっていく。
甲介のさらに後ろ、フィールドの外にはタブレット端末を抱えて立つサイクロプス娘ホノカの、愁斗の後ろには折り畳みの長机と椅子が置かれ、そこに座ってノートパソコンを覗き込む奥田柾輝と胡来瑠偉の姿があった。
『パーツの交換だけで済んだからよかったですけど、次からはせめてひと言声をかけてから持ち出してほしいですね』
『全くっす。一人で秘密の特訓だなんて、先輩らしくないっすよ──』
「いや、その……悪かった」
インカムから聞こえてくる二人の苦言に、愁斗は一瞬バツの悪そうな表情を浮かべ、それでも謝罪の言葉を口にする。
なお、ロボット重機特区でもある更紗市では、道路でメガパペットを歩かせる(移動させる)際には、操縦者とは別の人間を誘導係≠ニして随行することが暗黙の了解である。そういった意味でも愁斗の行動はあまり褒められたものじゃない。
──ま、「一人で」じゃなかったんだけどな……
そう胸中でつぶやき、対戦相手──甲介とホノカのさらに向こうを見やる。
観客席に集まった、二人を応援する明緑館学園の生徒の面々。その中にいる、明らかにヒト以外のパーツを身につけた異形の女子たち──
「魔物娘……か」
頭にツノやら手脚がモフモフやら、尻尾があったり下半身がクモだったり髪の毛の中から触手がうねうねしていたり……と、人外度マシマシな彼女らのひとり、自分の機体と同じ色をした龍の意匠をもつ少女と目が合った。
「…………」
目元を赤らめぎこちなく笑みを浮かべるドラゴン娘に、愁斗は微かに表情を崩し、小さくうなずいた。
…………………………………………
……………………
…………
二日前、夜の高架下広場──
「あー、え、えっと、シュウトく……じゃなかった、お──お前が操るそのヒトガタでっ、わ、わたしに一撃入れて、みろっ! そっ、そうすれば……えっと、あ、蒼き龍を名乗ること、み、認めてやらないことも、ないっ!」
「…………」
宙に浮かんだまま背中の膜翼をひと打ちさせる異形の少女。愁斗は手にしたプロポを操作し機体の動作を選択、トリガーに指を掛けると、
「大丈夫、なのか?」
「──! ……どっ、ドラゴンをみっ見くびるなっ。当たっても蚊に刺されたほどにしか感じない、わっ!」
「…………」
──それって、単に痛覚が爬虫類並みに鈍いってだけじゃ……
……なんて思われていることに全く気づかず、わたしのこと心配してくれてるやっぱりシュウトくん優しい〜と脳内でくねくね身悶えしながら、ドラゴン娘──半龍半人の姿で初対面のふりをして¥D斗の特訓相手を申し出たヒビキは、空中でエラそうにふんぞり返る。
「っていうか、人型重機と生身の人間がやり合うのは御法度なんだけどな」
小声でつぶやきながらも、プロポのトリガーを弾く愁斗。
キュイイイイイッ──アクチュエータ音を響かせて、メガパペット〈蒼龍〉がホバリングする彼女と相対し、構えをとった。
だが、やはり抵抗があるのかそのまま様子をうかがう。
「……う、あ、こ、来ない
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