明緑館学園の魔物娘十七人に聞きました。
「こちらの世界の物語──漫画やゲーム、小説や映像作品等に登場する、自分の種族と同じ名前のキャラクターについてどう思う?」
一番多かった答えは、「ご先祖様ってこんな感じだったんだ」
次いで多かったのは、「しょせんは想像の産物。自分たちとは無関係」
他には「扱いが悪すぎる。訴訟も辞さない」「(自分の種族が)マイナー過ぎてちょっと泣いた」などといった回答珍答や、「ウ◯トラ怪獣扱いはお願いだからやめて」という質問とは関係ない愚痴?もあったりしたのだが、
「XB−70とかいうヒコーキはかっこいいと思うぞ。……ヒト型に変形? 何だそれは?」
……はてさて誰が答えたのやら(笑)。
光の柱≠ノよってこちらの世界に迷い込んだ魔物娘たちが、明緑館学園で女子高生生活を始めてから三カ月が経った。
さすがに異形の姿も見慣れてきたのか、はたまた個々のキャラが浸透してきたのか、徐々にではあるが彼女たちもそれぞれのクラスや部活へ受け入れられだした……ようなのだが、こちらの世界で有名なモンスターの名を種族名にもつ者は、そのイメージを払拭するのにまだまだ苦労しているらしい。
バフォメット娘カナデのように、こちらの世界の伝承と大きくかけ離れた?姿をしていても、ときどき種族名をエゴサ(自分検索)しているのだとか。
「ふむふむバフォメット=山羊頭の悪魔というイメージは、こちらの世界では比較的最近のものなのじゃな──」
ちなみにバフォメット、というか悪魔のビジュアルイメージを固めた「メンデスのバフォメット」が、フランスの隠秘学者エリファス・レヴィによって描かれたのは十九世紀である。
<●>
一年A組のアヌビス娘、レインの証言──
「ん? ヒビキがどうした? そういえばあいつ、近ごろはクラスの皆に怖がられてもあまり気にしなくなってきたな。むしろ脈絡なく思い出し笑いをするようになって、そっちの方で引かれているのだが」
一年D組のアラクネ娘、ヤヨイの証言──
「A組のヒビキはんどすか? そういえばこないだウチのとこに来て、『友だちが休日に着る私服選びに困っている。清楚で可愛らしく見えるコーデを選んでくれ』って言うてきはったんやけど、あれ絶対自分のコトでっしゃろなぁ……」
一年E組のキキーモラ娘、イツキの証言──
「ヒビキさんならこの前、『簡単に作れるお弁当を教えてほしい』と頼んでこられたので、サンドイッチの作り方をお教えしたら、食パンとハムと野菜をいっぱい抱えて寮に戻ってこられて……ちゃんと作ることできたのでしょうか?」
同じくE組のショゴス娘、リッカの──
「わたくしの紫色の脳細胞にピピッときましたわっ! 以上のことから推理して……そうっ、ヒビキさんは意中の方を逃すまいとモーレツアピールを仕掛けようとしているに違いないですわっ!」
「いやそこまで状況揃ってたら、普通誰でも気づくぞリッカ」
「…………」
昼休みの中庭。
右手を握りしめてドヤ顔を浮かべたままフリーズする粘体娘を尻目に、ゲイザー娘ナギはベンチに座っていた幼馴染にして親友──サイクロプス娘ホノカの後ろにまわると、背もたれ越しに腕を回してその首にじゃれついた。
「ちょっ、ナギ、ちゃんっ、やぁん……っ──」
くすぐったそうに身をよじるホノカ。黒髪の中から伸びる触手を機嫌良さげにゆらゆら揺らめかせ、空いた手の人差し指で彼女の頬をぷにぷにつっつくナギ。制服姿の単眼娘二人の百合ムーブに、隣に座っていたホノカのパートナー、甲介がホットドッグを口に咥えたまま顔を赤らめる。
「でも肝心の、何処の誰がヒビキの意中の人≠ネのかが、さっぱりわかんないんだよなぁ」
「お前らホンマそんなん好きやな……」
横に立つ自分のパートナーである彼方のつぶやきに、ナギは「いいじゃんか別に」と口を尖らせ、顔の真ん中にある単眼でぎょろりと睨みつけた。
「ロボTRYのこと、わたしたちに尋ねてた。ヒビキの相手は、たぶん、メガパペットプレイヤー……」
ナギに抱きつかれたまま、ホノカが首を傾げる。
魔物娘は恋バナが大好物。それはパートナー(つがい)がいてもいなくても変わらない。
「けどさぁ、うちの学園で本格的にロボTRYやってんの、ホノカとコースケの二人だけじゃん」
「……せやな」
お遊びレベルの連中なんか、ヒビキの眼中にないだろうし……と付け加え、腕を組んで鼻を鳴らすナギ。プログラミング学習の教材として取り扱ったり、アーケードの体感ゲーム用にデチューンされた機体を操縦したりしたことのある生徒もいるだろうが、
「強者(つわもの)を求める本能を持つドラゴンが、そういった方々にアプローチをかけるとは思えない、ということですわね
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6 7]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録