「おにーちゃんっ、迷子になったの?」
「……?」
幼い声にいきなりそう呼びかけられ、あたりをキョロキョロ見回しながら歩いていたポニーテールの少年──ソーヤ・フォレストはあわてて後ろを振り向いた。
「えへへっ♪」
そこにいたのは小柄な自分よりも背が低い、初等学校に通っているくらいの年頃の女の子。襟元にリボンが付いた制服っぽいワンピースを着て短めのケープを羽織り、鍔広の、てっぺんが折れ曲がったとんがり帽子を頭に被っている。
きれいに切り揃えられたボブカットの黒髪、ぱっちりした鳶色の瞳。手にしているのは先端にハート形のチャームが付いた、ファンシーなデザインの短いステッキ。
「ねえねえ、道が分からないんなら、あたしが案内してあげるよっ」
両手を後ろに回して半歩下がり、小首を傾げてこっちを見上げてくる。
ちょっとあざといその仕草に、思わず戸惑ってしまう。
「あ──あ、えっと……」
親魔物領サラサイラ・シティに来てひと巡り(一週間)。ついこのあいだまで住んでいたソラリア教団領の地味、というか単調なそれとはまるで違う華やかな街並みに誘われてあちこち見て回っていたら、マジで道に迷ってしまっていた。
年下の少女に笑顔でそれを指摘され、ソーヤは顔を赤らめ目をそらした。
だが、今いる場所が分からなくなっているのは事実。頭に手をやりながら彼女に向き直って、「……えっと、そ、それじゃあ──」
「あ〜いたいたっ。……ったく何ひとりでほっつき歩いてんだよお前?」
道案内を頼もうとしたそのとき、騎士団の略礼装のような服を着た見知らぬ少年が、いきなりソーヤの腕を引っ張った。
そして、あっと短く声を上げる少女を尻目にさっさと歩き出す。
「あ、あの──」
「気をつけろよ。あれはサバト所属の魔女じゃなく、幼化の魔法でそれっぽい格好した年増のダークメイジだぜ」
「えっ?」
小声でそう告げられる。どうやら魔物娘に性的に°われるところを、知り合いをよそおって引き離してくれたらしい。
同時に背後から、「ちっ……」と口惜しげな舌打ちが聞こえてきた。
あわてて振り返ったソーヤだったが、先ほどの少女の姿はどこにも見当たらなかった。
「逃げたか」
「…………」
かくして、二人は出会った──
「え、えっと、な……なんか、助けてもらった上に、道まで教えてもらっちゃって、あの……ほ、本当にありがとうございましたっ」
魔導トラム(路面電車)の停留所まで案内してもらい、同じ方向の車両に乗り込む。
ソーヤは隣に立つ黒髪の男子に、ぺこりと頭を下げた。
「あ、いや、その……ま、まあ、無事でなにより」
「でもすごいですね。大人の魔女が化けてたのを見破るなんて……え、えっと──」
「ホシト……ホシト・ミツルギ。そりゃまあ一年もここに居たらそれくらいは、な」
鼻の頭を掻き、誤魔化すように言葉を濁して肩をすくめる。
実際のところ、彼──ホシトもこの街に来た頃に似たような目にあって、後見人の白澤先生に助けてもらったことがあったりする。幼い姿に擬態したダークメイジの餌食になりかけていたポニテ少年──ソーヤに気づいて割って入ったのは、そんな経験が頭をよぎったからだ。
もっとも最近では魔物娘たちが持つ種族ごとの魔力の質やその発動が、なんとなく感じられるようになってきているので、言ったことはあながち嘘ではないのだが……
「その制服、ワールスファンデル学院のですよね? 僕も今度そこに編入するんですっ。……えっと、まだちょっと手続きに時間がかかるみたいなんですけど」
「そっ、そうなんだ。じゃ、じゃあ、俺の後輩に、なるんだ──」
屈託のない笑顔を向けられて、しどろもどろに応えてしまう。
目の前にいる小柄な少年は、なんでも反魔物領から家族で逃げてきたばかりだとか。魔物娘に慣れていないもおそらくそれが原因なのだろう。
警笛が鳴らされ、次の停留所が近づいてきた。ソーヤはもう一度頭を下げると、
「ホントにお世話になりました。学校でもよろしくお願いします、ホシト先輩っ」
「あ、ああ、その、こ、こちらこそ──」
運転手の横にある箱に乗車賃を入れ、トラムを降りる。
振り返って手を振るその姿を窓越しに見送ったホシトだった……が、ふた巡り後に教室で紹介されるまで、彼はソーヤと出会っていたことをすっかり忘れ去ってしまっていた。
何故なら……
「ね、ねえ、ちょっとあれって──」
「えっ? ……あ、あれっ? さっきまであそこに男の子、いたよね?」
「か、可愛い……」
「……?」
──なんだ? なんでみんなじろじろ見てくるんだ? ……ていうか目合っただけで何、顔赤くしてるのあんた? 男だろ? そんな趣味ないから……っ。
トラムに乗
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