「おい知ってるか? シェール先輩が例のヴァルキリーに倒されたって話」
「マジか? あの、イタズラに引っかかったやつを嘲笑うのが三度の飯より好きとかいうマンティコアの──」
「なんでも事前に仕掛けておいたトリモチネットやエロエロ催淫ガスとかのトラップを力技で全部突破されたあげく、逆にむこうが仕掛けた金だらいを頭に落とされて、すっかり自信喪失してしまったんだと」
「そういやアイナのやつも、そのヴァルキリーにボコられたって聞いたな」
「ゲイザーご自慢の邪眼を使おうとしたら目玉に黒板消し全力でぶつけられて、そのまま自分の触手でぐるぐる巻きにされて校舎の窓からミノムシみたく吊るされたってさ」
「容赦ねえな、紅の戦天使」
「それであいつも最近おとなしくなったってわけか……って、聞いてんのか? ホシト」
「…………」
放課後の教室で他の男子生徒たちと駄弁っていたホシトは、いきなり何かに気づいたかのように視線を明後日の方へ向け、椅子から立ち上がった。
「どうした? いきなり」
「……あ、あ〜わるい、俺、ユーチェン先生に頼まれてたこと思い出した」
顔の前に右手を立ててそう言うと、彼は踵を返して教室をとび出していった。
なんか最近付き合い悪いなあ……といった声を背に、廊下の角を小走りで曲がって、階段を一段とばしで駆け上がる。
──なんだろう? また♂スか嫌な予感がする……
まるで急かされるような、早く行かないと取り返しのつかないことになりそうな、そんな焦りにも似た気持ちに捉われる。
ホシトはまわりにヒトの気配がないことを確認して、空き教室にとび込むと、
「エンジェリンク(天使転生)、ヴァルキリー!」
閃光とともに制服を着た男子生徒から、真紅のドレスアーマーをまとった戦天使の少女へと姿を変えた。
ホシト・ミツルギは、わずか1.93秒でヴァルキリー・ステラへと性転換変身する。
……では、そのプロセスをもう一度見てみよう。
「エンジェリンク、ヴァルキリー!」
変身の呪文──スタートアップワードを唱えると、時間が引き延ばされるような感覚とともに、着ていた制服が光の粒子と化して弾け、消失する。
同時に身体全体が柔らかく、顔つきを含めて丸みを帯びていく。
胸に二つの膨らみが生じ、肩幅が狭まっていく。
髪が蜂蜜色に染まり、首筋を越えてふわりとなびく。
ウェストがくびれ、腰とお尻がきゅっと持ち上がる。
腕と脚がすらりと細く長くなり、胸の膨らみがきれいな半球を描く。
陰茎は陰核に、陰嚢は陰唇に転じ、男性器が消失した跡に女性器──膣が形成され、身体の奥に生じた命を育む器官──子宮と繋がる。
「ふぁ……あ、あぁん──っ」
軽くイったときにも似た陶酔感。桜色の唇から漏れる声も、高く澄んだものになっている。
女体化したその身体に光の粒子が再び集まり、真紅のドレスアーマーが形成される。
「…………」
閉じていた目を見開く。長い睫毛に覆われた、サファイアのような蒼い瞳。
ヴァルキリーの姿になったホシト……ステラは腰にある二対四枚の翼を大きく広げ、空き教室の窓から初夏の空へと飛び立った。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「来たカ、ヴァルキリー」
「あたしは『やめなさい』って言ったんだけどね〜」
講堂棟との渡り廊下の前でステラを待ち構えていたのは、大勢の生徒たちに囲まれたアマゾネスのノザとラタトスク娘のメリア、そしてノザの右腕に首を抱きかかえられている小柄なポニテ男子──
「ソーヤっ! ……くん!」
「ステラさんっ」
どうやら絞め落とされてはいないようだ。彼女が風を巻いて地面に降り立つと、周囲から、おお……と一斉にどよめきが起こった。
「あれが、紅のヴァルキリー」
「ホントに来ちゃったよ、おい」
「ナマ天使初めて見た。あの剣、両手持ちだよな……」
「ノザの奴、マジであれとやり合う気かよ」
高等部屈指の武闘派魔物娘と正体不明の美少女戦天使。相対する二人に、ざわめきが広がっていく。さっきまでホシトと駄弁っていた男子たちも騒ぎを聞きつけ、ばたばたと駆け込んできた。
しかしステラはそんな野次馬たちの視線をガン無視して、ノザへと向き直った。
「ちょっと! どういうつもりなの、あなたっ?」
「ノザ、オマエと戦いタイ。だからソーヤ捕まえタ。そうすればオマエ来ル」
怒気を含んだステラの問いかけに、ノザは衆人環視の中しれっとそう答えた。ブラウスの袖をちぎってノースリーブにしたいつもの制服姿ではなく、迷彩のような紋様が入った民族衣装──戦装束に身を包んでいる。
その出で立ちを見て、ステラは彼女らアマゾネスが戦いのあと、大勢の前で男性との交わりを見せつけることで、自分の力を誇示
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