「チナツのゆるふわラジオカフェテリア」、続いては更紗市のラジオネーム・りゅーこさんからのおたより〜!
「こんにちはチナツさん。突然ですがわたしの悩みを聞いてください」
おー、久々のお悩み相談。聞いちゃいますよ〜♪
「四月に高校デビューしたのですが、クラスの人たちからは、なんか近寄りがたいと思われているというか、おそれられているというか、みんなとなかなか仲良くなれません──」
え、えっと、まあ、それはそれである意味、注目されているってことじゃない? ていうか、無理に友だち百人作る必要なんてないから……疲れるよ、人間関係。
「……こんなわたしですが、実は他校の男の子とお付き合いしています。でも、彼の前では普通の女の子のフリをしています。なので、化けの皮が剥がれてクラスの人たちみたいに怖がられてしまったらどうしよう──と、いつも不安がついて回ってます。
自分でも変な悩みごとだと思いますが、どうすればいいでしょうか?」
ははーん♪ 彼氏くんの前ではイメチェンしてるんだ。乙女だね〜♪
でもね、むしろ相手にどう思われるかにこだわって、りゅーこさんの方が逆に身構え過ぎていると思うんだけど。
変にキャラをつくろうとしたりせずに、自然体でいるのが一番いいよ。近寄りがたい雰囲気のときも、普通の女の子しているときも、どっちもあなたなんだから。
いっそ別人のフリして素のままで会ってみるとか? さすがに漫画じゃないんだから、わかっちゃうか──
─ giant killing ─
二十四時間後の近未来。
膝関節部が、悲鳴のような金属音を上げる。
それでもその機体は、ふらつきながらも両脚を踏ん張った。
四肢のカウリング(外装)はあちこちが割れ、そこからアクチュエータ駆動用リンゲルが血のように滴り落ちる。灰白色の左腕は完全に死んで≠「て、肩からかろうじてぶら下がっている状態だ。
まさに満身創痍。その言葉がぴたりと当てはまるのは、それがヒトの形をしているから。
試合終了まであと一分。だが〈ブラウホルン(青いツノ)〉と名付けられたその人型重機──メガパペットは、残った青い右腕を震わせながら前に突き出し、尚も闘う意思を示した。
第八回全日本ロボTRY選手権、更紗地区予選会決勝戦。
「ホノカちゃん、こっちはあとどれくらい動ける?」
『もってあと数秒。……でも、向こうも同じ』
人型の背中から伸びたケーブル。その先端に接続されたプロポ(コントローラー)を握りしめた甲介は、インカムから聞こえてきたパートナーの声に、童顔に似合わない好戦的な笑みを浮かべた。
対戦相手の機体も右肩のカウリングが脱落してフレームがむき出しになり、胸甲にいくつも亀裂が入っている。両膝部からは駆動用リンゲルが断続的に漏れ続け、向こうも立っているのがやっとのようだ。
「あんなになって勝てるのかよ? ホノカとコースケ」
「わからん……だが、あいつらはまだ、あきらめてない──」
ゲイザー娘のナギが、ヴァルキリーのルミナが、観客たちが息を詰めて見守る中、相手プレイヤーと目が合った。
ツンツンした髪をオールバックにした、目つきの鋭い同世代の男子。
どうやらあっちも、次で決めてくるつもりらしい。
「「…………」」
静まり返ったバトルステージ。彼らは同時にケーブルをしならせ、プロポのFTディスプレイから動作を選択、トリガーを引き絞った。
<●>
十日前──
「みんなっ、おはようっ♪」
その女子生徒は教室の扉を開けると同時に、中にいたクラスメイトたちにことさら明るく、朗らかな口調を意識して挨拶した。
短かった梅雨が明け、セミの声が耳につく季節。
何処の学校でもある、夏休み前の朝のひとコマ……だが教室にいた生徒たちは、男子も女子も皆一斉に彼女の方へと向き直り、座っていた者もあわてて立ち上がると、
「「「お、おはようございますっっっ!!」」」
「…………」
ビシッと直立不動の姿勢から、斜め四十五度の角度で揃って一礼を返す。
「あ、ああ、う──うむ、お、おはよう……」
一瞬で教室中に満ち満ちたその空気に呑まれ、思わず口調を変えて言い直してしまう。だが、そのひと言で皆の間にまたザワッと緊張がはしり、彼女は口元をかすかに引きつらせた。
──あああダメだぁ。やっぱりまだ怖がられてるぅぅぅ……
それを悟られないよう背筋を伸ばし表情を引き締め、ゆっくりとした足取りで自分の席に着く。
椅子に座って、はああ……と溜め息をひとつ。
湖水を思わせる紺色の、緩くウエーブのかかった長い髪。
若干ツリ目気味だが、十人が十人とも「美少女」と評する容貌。
制服の上からでもわかる、均整のとれたプロポーション。
プラウスの袖
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