06「キキーモラのバースディパーティ(後編)」

 更紗市警察署、生活安全課。
 一般には少年犯罪や防犯指導、家出人の保護などを行う部署だと思われているが、実際には銃刀法違反や悪質商法、ストーカー事案、DV、サイバー犯罪等にも関わり、その役目は多岐にわたる。更紗署ではそれに加え、地球の平和を守るため──と称して魔物娘たちがいる明緑館学園にテロ行為もどきを仕掛けようとする自称正義の戦士≠スちにも対応しなければならない。
 だが、今は昼休憩。先日の一件以来これといった事件もなく、オフィスにはまったりとした平和な空気が流れていた。
 色とりどりのお弁当箱を持ち寄った事務職の女性たちが、おしゃべりに興じている。

「それにしても樋口さん、なんだか最近雰囲気変わったと思わない?」
「あ、わたしもそう思う」
「そうそう、前はとにかく早く仕事を終わらせようと、躍起になってたとこあったよね……」
「仕方ないわよ。幼稚園に通ってる娘さん、迎えに行かなきゃいけないし」
「確か三年前に、奥さん病気かなにかで亡くされてるんだっけ」
「……でもこの頃は服も小綺麗にしてるし、なんか気持ちに余裕出てきたって感じ?」
「まさか樋口さん、誰か女の人と付き合いだした……とか?」
「えーっ、さすがにそれは…………あ、あるかも──」

「なになに〜? 樋口さんがどうしたってぇ〜?」

 ランチタイムを楽しむ女性たちの輪に、軽薄そうな優男の私服警官が近寄ってきて、へらへらした口調で口を挟んできた。
 途端に微妙な空気があたりに漂う。一斉に口を閉じた女子職員の一人が、呆れたように溜息を吐いた。

「ちょっと須田さん、女子トークにいきなり割り込んでくる男性は嫌われますよ」
「つれないなぁ〜、僕は四月からの転属組として、一日も早くみんなと馴染もうとしただけなのに〜」

 須田と呼ばれたその若手警官は彼女たちの白けた視線をスルーして、おどけたように両の手のひらを上に向けた。

「おいスダチっ! お前、こないだなんちゃら小隊とかいう連中から押収した改造メガロボットの保管書類、まだ出してないだろ!?」

 離れた席にいた強面中年の上司に大声で怒鳴られ、げんなりした表情になる。

「メガロボットじゃなくてメガパペット、それと僕の名前はスダチじゃなくて須田ですってばっ」
「いいからさっさとやれ、スダチっ」
「へ〜い」

 休憩時間に仕事させるなよなぁと口中でつぶやきながら、彼は自分の席に戻った。「……ったく、さっさとステッカー(整備命令標章のこと。勝手に剥がすと罰金刑)貼っ付けて返しちまえばいいのに。ねえ、樋口さん」

「あからさまに人を害する改造だからな。そう簡単に返却できんだろう」
「そんなもんですかね」

 隣で空になった弁当箱を片付けていた先輩警官──女子職員たちの話題の主でもある浩幸にたしなめられ、須田は気のない返事で応えた。
 例のなんちゃら……もとい、地球防衛隊NTR第七(中略)小隊の面々は、コトを起こす前だったこともあり、厳重注意の上で一応釈放されている。もっとも、そんな程度でおとなしく反省などするわけがないと警察側もわかっているので、メガパペットの返却はまだまだ先になるだろう。もちろん返された機体の武装(笑)を取り外さずにまた無断で動かしたら、今度こそ処罰の対象だ。

「あれ? そういえば樋口さんが弁当なんて珍しいっすね。自分で作ったんすか?」
「ん、ああ、まあなんだ……ちょっといろいろあって、な──」
「……?」

 答えになってない答え方をする浩幸に首を傾げる須田だったが、さっきの強面上司にまた怒鳴りつけられ、あわててデスクの上に積み上げられた紙の山をかき分けて書類を探し始めた。

<●>

「ふんっふふ〜ん♪ ふんっふふ〜ん♪ ふふふふん、ふふんっ、ふ〜んっ──♪」
「楽しそうだね、ホノカちゃん」

 ご機嫌な様子でビックリドッキリなメロディを口ずさみながら、折り紙と糊で輪飾り(チェーンみたいにしたアレ)を作るサイクロプス娘に、隣で作業を手伝っていた甲介は笑みを浮かべた。
 明日に迫った瑠璃のお誕生日パーティ。今は撫子寮の食堂で、その準備の真っ最中である。

「ちっちゃい頃にナギちゃんたちと、こうやって誕生日パーティしたことがあるんだ……部屋を飾ってケーキにロウソク立てて、おやつ食べたりプレゼント渡したり──」
「そういうのはこっちの世界と一緒なんだね。……そういえば、ホノカちゃんの誕生日っていつ?」
「火の節の三十七日目だから、こっちのカレンダーだと、えっと……八月五日、かな?」
「じゃあ、その日もこんな感じでパーティしよう」
「うんっ♪」

 単眼の両端を下げて、笑顔を見せるホノカ。
 彼女たちが元いた世界では、一年を光・土・水・火・風・影といった六つの「節」に分けて暦をつくっている。ひとつの節は六十一
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