両親は小さい頃に死んだ……らしい。というのも、俺の物心がつく前に事故かなんかで死んだらしく、その後は親戚の家をたらい回しにされた。誰も俺みたいなガキなんて養いたくないのだろう。遺産と保険金だけはしっかりと奪っていったのに、ふざけたやつらだ。
そんなことになるというのを予見していたのか、ある時俺の元にメイドが現れた。正確にはメイドを自称する不気味な人形だ。そいつは合成音声ソフトのような女声で、「初めまして、ご主人様」と言って、俺への服従を誓った。そのとき俺の面倒を見ていた叔父は大慌てでなにやら俺を説得しようとしていたが、メイドが俺の手を引いて「お家へ参りましょう」とだけ言い、半ば強引に連れ去るような形で親戚から俺を遠ざけた。
ってことがあって、俺は晴れて高校生。メイドはどこかからかお金を得ているらしく、学費も出せると言っていた。実際、今までの生活は何ら苦労していない。ただときどき、メイドの食事を食べるととてつもなく眠くなる。彼女は成長期特有のものだと言っていたが……。ただ、なぜかそういう日の翌朝、メイドはなぜか動きにハリとキレがあるのだ。ぐっすり寝て疲れが取れたという俺の、そのときばかりの気のせいなのかもしれないが。
「俺さ、ちょっと、気になる人できた」
学校から帰って、俺は自室に戻る最中、傍らに付き添うメイドにそういった。俺はこいつがオートマトンという人ならざる作り物であると知っていた。本人がそう言ったのだ。信じられないが、けれど彼女の肉体は全て機械であり、少なくとも人間ではない。
「気になる、ですか」
「うん。同じクラスの子。今度紹介するよ」
「なりません」
部屋に入って、いつもならそこで下がるメイドが押し入ってきた。
「絶対に、なりません」
「なんでだよ。俺にずっと童貞でいろってのかよ」
「そういうわけではありません。ただ、ふさわしい相手ではありません」
平坦で無感情。機械的な、プログラムの反射。そんなレスポンスではなかった。まるで……そう、我が子を取られそうになっている母親のような、可愛い弟を失いそうな姉のような、そんな口調だ。
「それはお前が決めることじゃないだろ」
「いけません。ご主人様は今若いだけで、熱にほだされている。冷静な判断がままならず、焦っておられるのです。今一度考え直してください」
「お前こそいつまで俺の管理をしたがるんだ。あのな、十六っつったらもう自分で考えて自分で行動する歳なんだよ。俺だって子供じゃない」
メイドの目つきが鋭くなった。
「言ってもわからないのですか? ご理解でいただけない、と?」
「ああ。わかんねえよ。っていうかお前、いつまで俺の部屋に──」
突然だった。天井と床がひっくり返り、気づけば俺は床に叩きつけられていた。
「いっ……っ、お前ッ!」
メイドが俺に馬乗りになる。そうして金属のスカートをパージした。露わになるのは人工皮膚の肉体。その下腹部、鼠径部……そして……。俺は慌てて目を逸らした。
「なら、お仕置きと教育です」
「んだと? なにを、んっぐ!?」
彼女が俺の唇を奪った。凄まじい力を込めた両手で俺の頭を押さえつけ、握り、じゅぶじゅぶと凄まじいディープキスをする。頭蓋骨が軋んで、俺は唐突な痛みと驚きで思考が止まった。
「ん……! んーっ! っ、ぁあ! お前っ!」
「隔意が見られる以上、こうしてわからせるしかありません。まあ、定期的に白いおしっこはいただいておりましたので、体にはしっかりと私の『味』を刻んでおりますが」
「は……?」
「睡眠薬で眠らせた後、精液を飲ませていただいておりました。とっても美味しいのです。以前私の動力は水素電池であると申しあげましたが、あれは嘘です」
「精液……? 何言ってんだ。ふざけた冗談言いやがって。ていうか、水素電池じゃあないんなら何で動くんだよ。まさかお前、原子力とか言うんじゃないだろうな」
「いいえ。精液です」
「……精液?」
「ええ。たった今申し上げました通り、ご主人様を眠らせ、精液をいただいておりました。ぷるっぷるの、ゼリーのような苦く、そしてほのかにしょっぱい、とてもとても甘美なものを。最低でも五回は射精させていただいてました」
「冗談だろ。お前、何言ってんだ。機械がセックスなんて……」
ありえない、そう言おうとした。けれど昨今、多くの科学者が「もし機械技術が進歩すれば、遠からぬうちに多くの男性が機械で童貞を卒業する」といった話を大真面目にしているのだ。もう、そういったものはエロ同人の世界のものではない。実際問題、ここにそれが可能であるといい、そして恐らくは実行に移そうとするオートマトンがいる。
「やめろ。待ってくれ。俺は人間でお前は機械だろ! なあ!」
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