前編

 東の大陸。深く白い霧に覆われたその地の奥深く、連なる山々を覆う木々の隙間にぽつんと建った一軒家があった。軒先の物干し竿に掛けられた二人分の着物を、白く小さい手が手際よく取り込んでいく。
 ロショウは捨て子であった。山奥にうち捨てられていたところをたまたま通りかかったトウキに拾われたのだ。往診医の白澤として生計を立てている彼女と二人、今は毎日を慎ましく──幾分か色に爛れているものの──暮らしている。
 傾いた日が差し込む床に座り、ロショウは取り込んだ着物を丁寧に畳んでいく。流れるようなその手つきとは裏腹に、幼い彼の顔は心なしか曇っていた。




 「お師匠さま…遅いな…」

 トウキは職業柄家を空けることが多い。そしてまだ幼いロショウはいつも留守番を命じられている。トウキが帰ってくるまでにあらかたの家事を済ませておくのがロショウの仕事だった。朝は洗濯、昼は掃除や草摘み、空いた時間に書物を学び、夕に乾いた洗濯物を取り込んで畳み、トウキが帰ってくるまでに夕飯を完成させる。

 (いつもなら今頃とっくに帰ってきてるのに)
 トウキはその健脚を活かして飛ぶように山々を越えてしまう。僻地もいいところのこの山奥で、一日に多いときは五軒も回ってそれでなお大抵夕方までには帰ってくるのだ。そうして日の差す縁側に二人並んで座って着物を畳み、台所に二人並んで立って夕飯を作るのがロショウの何よりの幸せであった。そのトウキが今日はなかなか帰ってこない。
 聡明で頑強な彼女の身自体は正直あまり心配していない。今までもこのくらいならば遅い帰りはあった。ロショウの表情を曇らせる理由は他にある。



 (ちんちんが…治らない…)
 ロショウの身を包む着物の股の部分。そこが今、控えめに押し上げられていた。座った姿勢でもなお服の下から主張するその膨らみの正体が、幼いながらに硬く怒張した陰茎であることは言うまでもない。


 ロショウは数ヶ月前に精通を迎えてからというもの、毎晩のようにトウキに抱かれている。精通を迎える前にも幾度か性的なちょっかいを出されたことはあったが──それは置いておこう。ともかく、女を孕ませられるようになってから数ヶ月という短い期間で、少年の体はすっかり盛んな性欲を常に滾らせるようになってしまっていた。聖獣と語られる白澤とはいえ魔物は魔物である。その彼女と毎晩体を重ねていればそうなるのも仕方のないことではあろう。

 問題はその溢れんばかりの性欲を留守番中にどうするかである。数日前、見かねたトウキはロショウに性処理──要は自慰の手ほどきを与えたが、正直なところそれは余り意味を成していなかった。トウキの魅力的な肉体とそこから浴びせられる快楽に、一人間の少年の右手が勝てるわけもなかったのだ。小さな竿を小さな手でしばらく扱いていても何か物足りない。自分に跨がってなまめかしく腰を揺するトウキを努めて思い浮かべても、さして心地よくもない自分の手との対比がかえってはっきりと感ぜられてしまうだけだった。


 そんなわけでロショウの最近は昼間に家事をしながら性欲を溜め込んで、夜にトウキに跨がられて思い切り発散するという流れが常になっていた。そしてトウキはそんな弟子のことをわかった上で楽しんでさえいるようだった。ここ数日はトウキが帰れば夕飯もそこそこに交わり始めてしまう。しかもそうするようせがむのはトウキではなく、他ならぬロショウの方なのである。顔を真っ赤に染めてか細い声で行為をねだってくるロショウを彼女はたしなめることもなく、悪戯っぽく微笑んで抱え上げ風呂場やら寝床やらで優しく「甘やかす」のみであった。




 今すぐ抱かれたい。あの柔らかく温かい肢体に後ろから抱きすくめられ、しっとりとした細い指でこの張り詰めた怒張を弄ばれたい。日を浴びて温かく乾いた着物を畳みながらも、淫らな想像は一向に止まらなかった。トウキの山羊の乳のように白い肌が、綿のように手触りのいい尻尾が脳裏を掠め、その度に息が荒くなっていく。この下着の色と同じ、彼女の朱色の瞳と見つめ合いながらその美しい手を精液で汚したい。べったりと指先や甲に張り付いた精液を、妄想の中のトウキはぴちゃぴちゃと淫猥な音を立てて舐め取っていく。


 「……」
 ロショウの手に握られているのは赤い下着だった。西や極東ではあまり見ない珍しい形の下着である。一枚の大きな布が体の前面を胸から腹まで隙間なく覆い、そのまま下に垂れて股を隠す。布の端から伸びた三対の紐を首、背中と腰で結んで固定する形のものだ。いうまでもなくトウキの下着であるそれを、ロショウはここのところ毎晩のように見ている、というか見せつけられている。朱色を好むトウキはその赤い下着だけを数着持っているからだ。
 毎晩見ているからと言って一向に見慣れることは
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