飼い猫に腰トントンが効くのか検証してみた!

 「あがったぞ、涼平」
 小柄な少女がリビングに入ってきた。
 「はやすぎ。あんこさあ、毎回だけどちゃんとあったまってないでしょ」
 あんこ。それが少女の名前だった。あんこは肩に掛けたバスタオル以外何も身につけておらず、透き通るような白い肌を惜しげも無く照明の下に、もとい涼平と呼ばれた男の目に晒している。その真っ白な尻の後ろでは真っ黒い尻尾が二本揺れており、少女が人間でないことを示していた。
 「風呂が好きな猫はいない」
 「一緒に入るか?それならだっ」
 「やだ」
 あんこは即答し、ソファに腰掛ける涼平の背後に回った。
 「……」
 大柄でごつごつした肩に顎を乗せ、その手元を覗き込む。涼平はタブレットで動画を見ていた。
 「あッ」
 次の瞬間少女の細い手が素早く伸び、タブレットの電源を切ってしまった。画面が暗転する。あんこは涼平が驚いているうちにタブレットを奪い取り、向かい側のソファに飛び移った。
 「ちょ、何すんだよお」
 「…はやく風呂入れ」
 体育座りでタブレットを抱え込みながら、あんこはそう命令する。二本の黒い尻尾がぱたぱたと忙しなく揺れている。これまた真っ黒な猫耳はぴんと前を向いて動かない。明るい照明の下にも拘らず瞳孔が開いて、普段ならきらきらと光るゴールドがよく見えない。飼い猫だったときから変わらない、機嫌が良くない証拠だ。
 渋々といった様子で涼平は立ち上がり、風呂場に向かう。その間半人半猫の少女は尻尾を素早く振り子のように動かし続け、不機嫌そうに涼平を睨み続けていた。

 からから、ぱたん。

 脱衣所の扉が閉まったところで、あんこはタブレットをローテーブルに置いて起動した。先ほど涼平が見ていた動画が停止して現れる。真ん中の白い三角形に触れると静画が動き出した。彼女の尻尾はまだ気むずかしげに動いている。
 「……またこんなの見て…」
 尻尾が一際大きくばたばたと振れ、太鼓のばちのようにソファを叩く。


 尻尾が示すとおり、今のあんこは不機嫌だった。
タブレットに映し出されているのはかわいらしい猫の動画。三毛猫だ。背中をさする飼い主にごろごろと喉を鳴らして甘えている。
 「こんなメスより僕の方が毛艶もいいし…かわいいし…スタイルは……う…な、並以上だしっ…」
 決して大きいとは言えない自分の胸を見下ろして、あんこは少し口ごもりつつもぶつぶつと文句を垂れる。
 「だいたいボクは血統書付きのボンベイだぞ…そこらでオスメス盛って生まれた雑種とはわけが………にゃ、へっ!?」
 びくりと肩が跳ね、尻尾が山なりに持ち上がってぴたっと止まった。細めかけていた瞳孔が再びぱっと開き、画面に釘付けになる。
 画面上では特段変わった動きはなかった。ただ飼い主の掌が三毛猫の背中を滑り腰にたどり着いて、そこをたしたしと軽く叩いているだけだ。そう、俗に言う『腰とん』だ。人間からしたらそれだけである。だが──。

 「な…なな、な…急に何を…こ、これは…」
 猫にとっては別だった。雌猫、とりわけ猫の魔物たるワーキャットやネコマタにとって尻尾の付け根は敏感な性感帯の一つに他ならない。あんこの目線では恋人の頭を撫でていた男が突如その女の陰核を弄りはじめたようなものである。
 「…う…そういう…え、えっちな動画なのか…!?でもこれヨウチューブだし…そんな動画が載ってるわけ…」
 ごくりと生唾を飲み込む。
 「ていうか!リビングで…こ、こんなの見るなんて…!涼平のやつ…!」
 あんこは自分自身そこまで性に積極的なわけではない、というつもりでいる。猿みたいに交尾をするそこらの野良猫や魔物とは違うのだ、という妙なプライドを持っているのだ。さらに言えば恋人を気まぐれにたぶらかす自分に酔っているところすらある──実際そこまで主導権を握れているわけでもないのに。要は面倒くさい魔物なのである。形式上はいつもあんこが涼平の性欲に付き合っている、ということになっているのだが、それが涼平の大人な対応の上に成り立っていることをあんこは知らない。
 三毛猫は気持ちよさそうに目を細め、優しく叩かれる腰を持ち上げて鳴き声を上げている。猫の鳴き声は人間ほど高度に意味を伝えはしないが、同じ猫ならば大体のニュアンスは聞けばわかるものだ。画面の中の三毛猫は間違いなく快楽に喘いでいた。
 「う……うぅ…これ…こんな…え、えっちな…っ」
 警戒するようにちらちら脱衣所の方を見やりつつも、動画を止めることはしない。扉を見て、画面を見て。扉、画面、扉、画面…画面、画面。次第に動画から目を逸らす間隔が開いていき、数十秒もするとあんこはすっかりタブレットの中で行われる情事に見入ってしまっていた。

 たかたかたか。みゃあああああう。

 指先を立ててひっかくような叩き方になると、三毛の鳴き声
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