単眼の愛

 広い石造りの部屋があった。炉で火が小さな火花を散らしながら赤々と燃え、赤熱し溶解した鉄の熱で地獄のように熱された小さな部屋。

 そこで一人の人間が大振りな槌で一心に鉄を打ち続けていた。槌が熱された鋼を打つ度に火花が飛び散り、消えていく。

 鋼を鍛えるかん高い音、熱された鉄が打ち据えられていくにつれて打音は僅かにずつ澄んだ音へと昇華する。

 やがて、鍛えと成型が済んだ赤い鉄の塊が水の中へとつけられると奇妙な獣の断末魔のような音が響いた。一瞬で蒸発させられた水が上げる変化の悲鳴だった。

 分厚い手袋がはめられた手に握られたやっとこ、その先に掴まれた鉄の塊はすっかり冷え、僅かに煤を帯びながらも鏡面のような怜悧さを宿していた。

 その刀身に映るのは単眼の異形。伏し目がちの巨大な目がじっと自らが鍛え上げた刃に注がれ、映った己を見返している。長く淡い色彩の髪は頭の高い所でくくられていた。

 その異形の貌は、すっと通った高い鼻と、薄く真一文字に結ばれた唇の印象も相まって古い美術品のような無機質で冷たい美しさを有している。

 「……まずまず」

 桜色をした唇が開かれ、美貌のイメージに見合った美しく凛とした声がこぼれた。

 出来上がった刃は長さ70cm程度であり、刃の下にもうけられた茎は片手で握り込むのに丁度良い長さであった。

 仕上げ段階でないというのに見事な輝きを有する刃をやっとこに握らせたまま作業台に乗せ、磨きの準備をする。これで刃を研ぎ澄ませば完成である。

 分厚い耐熱手袋をはずし、加工用の繊細な感覚も分かる薄い手袋につけ替える。作業台の前に置かれた小さな椅子に長身を降ろし、作業するべく身を屈めると体と机の淵に豊満な胸が押しつぶされた。これでは痛くて堪らない。

 面倒くさそうに大きな胸をすくい上げ、机の上に置いた。これで屈んでも少々苦しいだけで痛くはない。女は得心行ったと言いたげに頷き、刃を研ぎにかかった…………










 炉を有した鍛冶場の隣、また別の部屋があった。手狭な部屋に大きな作業台や加工道具、そして木製の人型が置かれているそこには小さな打音が響いていた。先ほどの鍛冶場のように大きく断続的な音ではなく、控えめで連続した音だ。

 音の発生源は椅子に腰掛けた男だ。中肉中背の引き締まった体を屈め、手元を一心に見つめて小振りな槌を細かく振っている。

 叩くのは小さなな鉄板で、それは中央を細かく叩かれて僅かずつであるが円を描き始めていた。

 ある程度の成型が済むと男は額に浮かんでいた汗を袖で拭い、短く刈り込んだ茶色い頭をかきあげた。薄い唇から深い息が漏れ、緻密な作業で緊張していた体が弛緩する。

 「ああ、しんどいな」
 額だけでなく掌もじっとりと汗で濡れていた。作業に集中すると男は手に汗をかく質なのだ。このままでは堪らないので汗を拭うべく手拭いを探るが、見当たらない。

 さて、どこにやったかと普段の癖で左側を向くと机の端に手ぬぐいが引っかけられていた。

 「やれやれ、どうにもいかんね」

 手のひらを拭った後で顔も拭う。

 その優しげな雰囲気の顔には大きな傷が刻まれていた。左の額から顎下に抜ける大きな刀傷。それが通る左目は潰れて窪んでいた。それ故に左側の視界が狭く、常に左を意識してしまう癖の原因だった。

 刻まれた大きな傷と少し草臥れたような雰囲気、男は外見よりもずっと年老いて見える顔を歪めて成型した鉄の群を並べていく。

 先ほど作っていた小さな半円板と、少しずつ大きくなっていく同型の四つの部品。その他に薄い板状の鉄板、その両端を少し折り曲げ中央が撓んだ物が沢山積まれていた。

 「こっからが面倒だな」

 槌とは別の先端が尖った道具を取り出し、金槌を隣に用意する。その道具の柄は柄頭が広い板状になっており、丁度金槌で打突出来るように作られていた。

 半円形の鉄板を取り、筒の片側の切っ先に尖った先端を据え金槌を振り降ろした。硬質な澄んだ音が響き、小さな穴が穿たれる。

 筒の逆にも穴を開け、対面も同じようにする。一枚の鉄板に四つの穴が出来た。

 同様の作業を繰り返し、他の鉄板にも小さな穴を作ると短く小型なビスで連結していく。すると、筒の集合はぴったり指を覆える形になった。少々大振りで堅くなった自分の指に重ねると丁度良い具合に重なったので、量販品の個人的な対象が無いなら物なら、この位の大きさでいいだろう。

 指の部分を五本作り、板状の鉄板を組み合わせると手の甲を覆う部分が出来た。手のひら側が未完成な所を除けば見事な手甲だった。

 「まぁこんなモンか、翼竜のなめし革は何処に置いたかな……」

 備品を入れている棚を漁り始めた時、部屋の扉が開き、むっとした熱気が流れ込んでくる。

 
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