砂の愛

 照りつける太陽から注ぎ込まれる熱は皮膚を突き破って肉を焼き、骨までも焦がすかのように暑い。もはやそれは熱いと言った方が正しいような温度であった。
 中東のイラン、その東半分を占めるカーヴィル砂漠は真夏の現在気温は五〇度を超え、その中に居る者を全て焼き付くさんかの勢いで夏の盛りを迎えていた。
 礫石と塩分を多く含んだ荒い砂は歩きにくく、かつ足の関節をその硬さで痛めつけ、真冬であっても二〇度を下回る事のない気温はまるで地獄の釜のようである。
 そんな地獄の具現のような地に一組の男女が居た。
 砂色の野戦服を着込み、大量のマガジンを収める事の出来るチェスト・リグを防弾ベストの上に重ねた男と、同じく砂色の野戦服に身を包んだ女。服装において異なる点と言えば、女はチェスト・リグをつけていない点ぐらいだ。
 だが、女性は大きな意味で男性とは容姿が違っていた。
 臀部までは完全に美しいラインを描く女性のそれであるが、腰から下は尋常の物ではない。
 臀部の下から生えるのは四対の大きく鋭い歩脚とその付け根、そして小さいが鋭利な鋏を備えた二本の触腕。見た目で言うと足の無い女性が巨大な節足動物の脚部に乗っているという具合だ。
 そして極めつけは本体よりも巨大で、鋭い針を備えた尾。太陽光を照り返す甲殻と天に挑むかのような堂々たる尾を備えた女性は男性の隣に寄り添い、一際高い砂丘の上から下界を睥睨する。
 「まだ見えないな」
 男性は押しつけるように見ていた双眼鏡を一度放し、バンダナとブッシュ・キャップで大半を覆った顔の汗を拭う。紫外線対策とは言え外気五〇度の地獄でこの厚手は相当堪えるであろう。
 「そろそろのはずなんだけどね」
 暑苦しそうな男性とは対照的に女性は軽装であった。小さく尖った耳からかけたサンドブラウンの面覆いで勝ち気な目から下を隠し、砂漠に紛れる砂色の髪は頭頂部の高い位置でくくられている。慣れているのか健康的な褐色の肌に汗は浮いていない。
 「あれは…」
 男性の呟きに呼応して遙か彼方の砂丘の向こうより何かが盛大に砂煙を上げて突き進んで来る。速度は速く、南西から真っ直ぐ走るそれは無骨なトラックの一団であった。
 トラックといっても只のトラックではない。五台で縦列を組み驀進するそれらの荷台には一様に重機関銃が据え付けられ、物騒にも突撃銃で武装した褐色の肌をした男達が満載されている。
 男性は素早く双眼鏡をのぞき込み、トラックを睨め付ける。そこには彼が予測する通り国籍を主張する物がない。
 このカーヴィル砂漠はアフガニスタン、パキスタン、インドに接するルート砂漠に続いており、この進路で進めば丁度その砂漠に行き着く。
 どこの国旗も掲げて居ないという車団といえば二つほど覚えがある。
 一つは国境無き医師団などの医療ボランティアであるが、少なくとも何処の世界を探してもあんな物騒なボランティア団体は存在しない。
 そしてもう一つは…
 「見つけたぞテロリスト共」
 「直ぐに止めるわ」
 女性は意気揚々と畳んだ脚の下に隠していた包みを取り出す。砂色のそれは細長く、何とも無骨な形を浮き彫りにしている。
 「距離約二〇〇〇、すぐこっちまでくるぞ」
 「了解」
 今は豆粒のような大きさにしか見えない車団がどんどんと近づいて来る。こんな砂漠に制限速度は無いのでかなり飛ばしているだろうからその速度はかなり速い。
 女性は包みを解き、その中身を肩付けに構え脚を伸ばして地面に低く伏せる。その際隣の男性に歩脚が軽く当たってしまい、目線で謝罪して脚を男性の上に載せる。
 「重いんだが」
 「一分我慢して」
 女性が構えるそれは鈍色の鉄とグレーのポリカーボネイトの混合物。旧共産圏最強と謳われたセミオートライフル、ドラグノフ狙撃銃であった。
 大きな直列マガジンと細く、大胆に肉抜きされたボディはある種の芸術的美しさを有している。薄いチークピースに頬を乗せ、八×四二倍高倍率スコープを覗き込む。
 「現在ほぼ無風、距離九二〇。いけるか?」
 「目を瞑ってても」
 距離、風速に合わせてゼロイングを施す。勿論モンロー効果も忘れずに計算する。位置と距離と高さ、数え切れないほど行われ染みついた三角関数の計算は頭に一瞬でその適正値を弾き出す。
 「最初の三台止めたら後は出来る限りでいい」
 「面白い冗談ね」
 息を止め、一瞬。
 「全部だわ」
 銃声が轟いた。引き金が絞られると、可能な限り構造が簡略化され砂を噛んでも動き続ける機構は要望に応えて鉄の暴威を吐き出す。音速で飛ぶ七・六二mmR弾はまるで吸い込まれるかのように最前列を走るトラックの前輪を打ち抜いた。
 タイヤが爆ぜ、不整地を高速で駆けていたトラックはバランスを大きく崩し、幾度か車体を振ってなんとか立て直そうと足掻いた後横転、後
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