数年前のことを思い出していた。私はその時からずっと、この東の町で過ごしている。
この町には時折どこからともなく人がやってくる。流れ者の町だ。国はずれの小さな町。
見るものと言えば、今私が住まわせてもらっている、託児所兼孤児院兼病院と化している大きな教会ぐらい。大きなステンドグラスが太陽の光を浴びて救いを求めるものを妖しく美しく照らす、この町の中心。しかし管理をしているのはダークプリーストだ。
今日は町を回る日だ。午前のうちにおおよそ向かう予定だったところは回りきった。少し疲れたので、町はずれの原っぱにある大きな石の一つに腰掛ける。
魔方陣を書いて、とばされた場所がここでよかったとつくづく思う。ここは流れ者を深く詮索もせず受け入れてくれる。
「あ、せんせーこんにちは」
男の子が話しかけてきた。教会で生活している子だ。
「やあこんにちは、ルカ」
ルカはにこにこしている。
「せんせーは今日はサボり?」
子供は直球勝負だ。
「いや、今日はみんなのおうちに行って仕事する日なんだ。今は休憩中」
「ふーん。せんせー今度いつ勉強教えてもらえる?」
「うーん、最近は忙しいからなあ。でもまあ、近いうちにな」
「ホント? 絶対来てね」
この世界に来てすぐは、こんな仕事をしていて子供になつかれるのは何とも不思議な感覚だった。同じ仕事でも、技術によって扱いが変わる。
その時、強烈な爆音と同時に、突然視界が真っ白になった。
原っぱに焼け焦げた円形の空間が出来ている。そして中心には少女が一人横たわっている。
ルカは私にすがり付いている。
「ルカ、大丈夫。ここにいなさい」
私はルカを石に座らせ、少女の元に走った。
危険かもしれない。だがそんなことは問題じゃあなかった。
少女の手はハーピィのように羽を生やしている。魔物だ。しかし、基本的な体系は人に近い。
脈をみようと首に手をやると、静電気のような痛みが私に走った。おそらくこの子の力だろう。
まだ脈はある。しかし、
「ルカ、町に行って大人を呼んできてくれ、急患だ」
ルカは一度うなずいて町に向かって
「だれかー急患だよー急患だー」
叫びながら走って行った。
見慣れない天井。顔を横に向けると、男の子が一人。
「あ、起きた! せんせー! 起きたよー!」
男の子はボクの顔を見ると何か声を張り上げながら走って出て行った。
しばらくするとさっきの男の子と男の人がやってきた。
「やあ遅くなってすまない。気が付いたか。よかったよかった」
男の人はほっとしたという様子だ。
「あの、ここはどこでしょうか」
とりあえずそれを聞く。
「ここは東の町の教会だよ。君は町はずれで倒れていたんだ」
知らない町だ。ずいぶんと遠くに来てしまったらしい。
不意に、右腕に痛みが走る。
右腕には包帯が巻かれていた。
一気に血の気が引く。
「あの、これは」
男の人はバツが悪そうに話す。
「あー、いいか、落ち着いて聞いてくれ」
聞きたくない。
「キミの右翼は、いま折れている」
やはりそうだった。
ああ、ボクは失敗したんだ。
目の前がゆがんでいく。力がうまく制御できなくなっていくのがわかる。
「お、落ち着きなさい」
男の人の声が聞こえる。
「ボクみたいな魔物の翼が折れたらどうなるか知ってますか? 骨はつながったとしても、今までのようには飛べなくなるんです」
稲妻が制御できない。
「もしかしたら、二度と飛べなくなるかも」
「もう、二度と故郷には戻れない」
稲妻が目に見えてきた。バチバチと音がする。
急に男の子がボクに抱き着いてきた。体に痛みが走る。
「っつっ!」
「ルカ、危ないからやめなさい!」
男の人があわてた様子でボクからルカと呼ばれた子を引きはがそうとする。
「やだ!僕は男だ!」
よくわからないことを言って、ルカはボクを離れようとしない。
いつの間にかボクが放っていた稲妻は止んでしまった。
「ここに住めばいいよ、ねえ、ここで一緒に住もうよ」
ルカはボクに話しかけ、ボクの体をゆさゆさを揺らす。痛い。
「ちょっと、ごめん、痛い」
「あ……、ごめんなさい……」
ルカはボクから離れた。
男の人が頭を掻きながら話し始める。
「……あーまあ、順番に話していこうか。とにかく、翼は、時間がかかるが治せる。また今までのように飛べる」
「本当ですか」
「私は医者だ。とある理由で一応この世界では誰よりも生き物の構造に詳しい。はず」
凄い自信だ。
「勇者様が使う、大けがを一瞬で治すようなとんでもない治癒術が使えるわけじゃあないが、骨折を適切に治すことはできる。もう30人以上また飛べるようにしてきた」
……よかった
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