第5節 惑い無き力-決断塔-

コツ、コツコツ、コツ、コツコツ

 三人の足音が鳴り響く。
 音はすぐに勢いをなくし、眼下に広がる深い闇の中に落ちていく・・・
 どれくらい登っただろう。
 周囲を見渡すことが出来ないほどの闇だが、開けた扉のすぐそばにあったランタンの灯が足下だけをうっすらと照らす。
 下を見ると既に最下層は見えず、上を見ても暗くて見ることが出来ない。
 見えないが、螺旋階段は続いているようだ。
 特に何もなく登り続けているが、それが一段と三人を不安にさせる。
 入った扉とは反対の扉なのではないかと。

「決断か。確かに・・・」

 リザールはこの状況に確信を置いていた。
 これが最初に塔に予告された試練なのだ。
 決断というのは、一瞬で終わるものではない。
 その結果を見るまで効力を持ち続けるのだ。
 決断に迷いが生じ、結果を見る前に諦めるのならばそれは決断とは言わない。
 あくまで”選択”なのだ。

・・・と、
 目の前に何かが見えてきた。

『見えるものだけに確信を置かず、常に自我を保て』

 立て札の文字が変わる。

『精神の崩壊は肉体の崩壊を意味するからである』

「どういう事でしょう?」

「わからない。だが、試練が目前だとの警告であることは・・・」

キラッ

 リザールの目に何かがとまる。
 立て札から覘く小さな赤い光。
ーーーーー次の瞬間

カッ!!

 その光が三人の視界一杯に広がる。

「くっ!」 「きゃっ!」 「うっ!」

 真紅に染まる視界。
 だがそれも一瞬の事で、視界は元に色を取り戻す。

バサササッ・・・

 赤い光の持ち主は静かに羽音を響かせながら飛び去っていった。
 異変が起こり始めたのはその直後

「あ・・・あぁ・・・」

 アクラを見やると、彼女は驚愕の表情を浮かべ、震える指先で階段の先を指す。
 そこには
 巨大な振り子式斧が二つ
 既に動き始めていた

「まずいっ!アクラ回避だっ」

 リザールとビアニカは直後に回避行動をし、ほとんどないに等しい二つの斧の隙間を通過出来るよう身を置いていた。
 しかし恐怖で竦み、彼の声で我に返ったアクラの回避は既に手遅れに近かった

ブオオオオオォォォォン!!

 リザールとビアニカの前をうなりをあげて通過する
 直後

ザックン!・・・ぶしゃぁぁぁぁ・・・

 それはアクラに直撃
 彼女の体と左肩を引き裂いた。
 アクラの傍らに自らの左肩が落ちる
 吹き出すような出血
 それでも尚アクラは状況を理解できていないようだ。

「アクラーーーー!!」

 堪らずビアニカが叫ぶ。
 叫びを聞いたアクラはここで初めて自分の傷口に目をやった。
ーーーーー瞬間
 例えようもない激痛が全身を駆け抜ける

「・・・・・ぁっ・・・・っ」

 痛みの故にアクラは声を出すことも出来ず、その場に倒れ込む。
 出血は止まることなく、斬られた・・・というより引きちぎられたような傷口から
 白い骨、未だ動こうとする筋肉の繊維、はみ出ている血管
 体内にあるはずのものが露出され、外気に冒されていく。

「早くしないとアクラがーーーーーーー」

どすっ

「がっ・・・は・・・っ」

 アクラに駆け寄ろうとしたビアニカの背中に強い衝撃
 前傾姿勢だった体は衝撃によって前のめりに倒れる
 石段の上に倒れ込んだ彼女の背中には
 投げナイフが深々と刺さっていた。

「ぁっ、ひゅっ・・・っ、ひゅっ」

 刃は肺を貫通。
 穴からは呼吸の漏れる音がし、呼吸することで傷口は更に広がっていく。
 呼吸を止めたくても、生きるために止められない。
 傷口が広がっていくのを止められない。

がぼっ・・・ばしゃぁぁ

 吐血。
 もはや虫の息。いや、息すらも攻撃。
 ナイフからも血が滲み始める。

 リザールは背後の二人の状況を把握しながらも、振り返ろうとはしなかった。
 前を見据え続ける。

プスッ!プスプスプスッ!

 正面から無数の針が接近し、リザールの全身を突く
 的確に神経を突いている針は体に激痛を呼び起こす。
 また、体内に異物が流れてくるのも感じる
 恐らく毒。
 即効性があるのか、針が刺さって間もなく血液は口内までこみ上げてくる。
 鉄の味。
 その味を舌に、激痛を体に感じながらリザールは静かに目を閉じる。
 意識が飛んでもおかしくないほどの苦痛
 そんな中でリザールは記憶を巡らせる。

(目に見えるもの・・・精神の崩壊・・・肉体の崩壊)

 そして核心に辿り着いた。
 すると
 今までの不快な感覚が嘘のように消えていく。
 鉄臭い液体、体を襲う激痛は徐々に消え
 跡形もなくなる。

 リザールはゆっくりと目を開く。
 そこに見えるのは階段。
 先程まで登っていた、ゴールの見えぬ階段。

「っ・・・ぁぁ」 「
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