第3節 月夜の下で-蘇生の森-

 急激に間合いが詰まる
 先に動いたのはリザール
 右拳を大きく振りかぶり振り抜く!

ブゥオオォン!

 モーションの大きい攻撃故、拳を振り抜いた後の隙が大きい。
 それを狙っていたワーウルフはその一撃を避ける
 予想通り出来る隙
ーーーーーもらったっ!
 ワーウルフは右拳をがら空きのボディに打つ!
・・・が

パシッ!

 実は先程のリザールの攻撃は全てフェイク。
 わざと隙をつくり、そこを狙わせるのが目的。
 左手で右拳をガードされる。
 その間
 戻ってきた振り抜いた右拳を開きそのままアッパースイング!

シュフィィィン!

 鋭く風が引き裂かれる音。
 ワーウルフは反応したものの体が対応しきれず、リザールの長い爪が左頬をかすめる。

「くっ!」

 一瞬怯んだがリザールはたたみ込んで来なかった。
 これを好機と見てリザールの頭目がけてハイキック!

ヒュッ・・・バシッ!

 手応えは感じたがもちろんリザールはガード。
 リザールはハイキックで片足になった足にローキックを繰り出す!

ヒュッ・・・バスンッ!

「あっ?!」

 リザールのローキックによりいとも簡単にワーウルフはバランスを崩す。
 しかし彼女は宙返りし態勢を立て直そうとする。
・・・が
 それこそが彼のねらいだった。
 着地地点に足が着くか着かないかのところで足首の辺りを狙って放たれる回し蹴り!
 彼女は今度こそバランスを崩し尻餅をつく。

「んあっ!」

 そこに隙があった。
 だがリザールはあえて攻撃しない。
 尻餅をつくワーウルフの前に立ち、ただ

 見下ろす。

「ぐっ・・・!」

 リザールの威圧感にたじろぐ狼。

「ま、まだ半分の力しか出してないっ!」

 ワーウルフは素早く立ち上がり再びリザールに向かってダッシュ!
 爪を立てて今度は首を狙いに行く。

ボスゥッ!

・・・彼女には何が起こったのか理解できなかった。
 いつの間にか腹部にリザールの”静止”した拳が埋まっている。
 リザールは相手の軌道を読み、腹部の位置を把握してそこに拳を”置いて”いた。
 その拳にワーウルフは自ら突進し、自らダメージを負う。
 拳には何の力も加えられていないというのに。

「っ・・・・っっっぁ・・・・っ」

 ワーウルフは腹部の衝撃により呼吸困難になり一瞬呼吸が止まる。
 同時に動きも止まる。
 その間にリザールは彼女の背後に回り首元に鋭い爪を当てる。

「俺はまだ10分の1だ」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」

 彼女が呼吸を出来るようになった頃には既に勝負はついていた。

「はぁ、はぁ・・・こ、殺す、の?」

「どうされたいんだ?」

 あえて冷徹な態度をとるリザール。
 爪に少し力を入れる。

「あ・・・」

 艶やかな声をあげ苦痛の表情をみせるワーウルフ。

「強いものに従う。それが俺たちの住むこの世界の掟だ、そうだろ」

「・・・はい」

 こうして獣同士の上下関係は確立されていく。
 彼女が従順になったことを確認するとリザールは拘束を解く。

ストン・・・

 ワーウルフはその場に座り込む。
 そんな彼女を見て、目線を同じ高さに合わせるためにリザールもしゃがむ。

「名は」

「はい・・・ビアニカです」

「ではビアニカ。俺の質問に答えてもらおう。」

「はい」

 遠くから二人のやりとりを見ていたアクラも、ビアニカが安全なことを確認しリザールの隣まで寄ってきた。

「お前は魔王の命を受けているのか?」

「はい、直接ではなくダークエルフを通して」

「お前は元々ここの番人だったのか?」

「はい」

「なら魔王の目的は知っているか?」

「いいえ・・・」

 結局魔王の目的は明らかにされなかった。
 ダークエルフから命じられた者達は、恐らく魔王の名を出された瞬間それに恐怖し理由が何であろうと従ってしまうのだろう。
 よって魔王の目的を知らされるはずがない。
 正確には必要ないのだ。

 最後の答えを聞き終えると、リザールは立ち上がる。

「行ってしまわれるのですか?」

 座り込んだままビアニカは捨てられた子犬のような目でリザールを下から覗き込む。

「ああ。お前に命令したダークエルフを追っているからな」

 リザールの蒼い瞳がビアニカを捉える。
 彼女はその瞳に吸い寄せられるような感覚を覚え、同時に親近感を抱かせるものだった。
 初めて会ったとは思えないような
・・・そんな感じ。

(!!)

 そして彼女は理解した。
 その親しみの理由を。

(・・・私に似た存在、というのは・・・この事だったのですか)

 ビアニカは何事かを考えると、決意の宿った瞳でリザールを見上げる。

「私を仲間に入れていただけないでしょうか?」

「・・・」
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