11語目 アタタカナイト(温かな+ナイト[夜])

それからの3日間はとても早かった。
俺と青葉は特訓に明け暮れる日々、時には千彰と蓮を交えて訓練することも
でも、そんな日々も明日まで。
明日には全てが決まる。
勝つか負けるか、カンマかピリオドか。
だから決戦前夜の今日はなんか特別で、二人でこの時間を大切に過ごそうと話し合った。

「いつつ〜〜〜」

痛だだだだだっ!
も、もう少し優しく手当てしてくれても・・・・
そう思わずにはいられない、風呂上がりのひととき。
上半身を晒した俺の背後で、青葉が手当てしてくれている
その日の練習での怪我をその日の夜に手当てしてくれるのが、最近の日課だった。

「我慢して下さい?男子なのですから」

「いや、でもね、とってもね、痛っ!!」

「背中に意識を集中させ過ぎているのです、何か別のことに注意を向けてみて下さい」

別のこと?
なんだろなぁ・・・・
モンモンモンモンモンモンモンモン
『お代官様〜、お止めになって〜』
『ぐへへ、良いではないか(ry』
『あんっ』
『おいおい、けしからん体じゃのぅ』
『そ、そんな、そこは、ちょっと』
『ぐへへ、良いでは

「大樹様。」

「っひゃい!!」

「何を想像していらしてたのか、教えていただけますよね?」

「いや、それは、その」

「大樹様」

「取り立てて特別な事じゃ」

「大樹、様」

「ダラダラ(脂汗」

言える訳ねぇ!
あんな事やこんな事を想像していたなんて・・・・

「次はもしかすると怪我が増えてしまうかも知れませんので、注意して下さいね?」

「はい。」

危ない、恐怖のあまりチビるとこだった;
なら何を考えればいいんだろ?
う〜ん、全くわからん!
逆に何も考えない方向で行くか?

「そういえば、木原さん、何と言っておられましたか?」

「ああ、いつでも行けるように準備しとくってさ」

木原はすっかりオリヴィエの記憶を失っていたが
幸いなことに俺との記憶は残っていて、今も定期的に連絡を取り合っている。
そんな木原に新君祭の話をするわけにもいかず
『近いうちに一緒に旅行へ行くと思うから、準備しといて』
とだけ言っておいた。
きっと行き先が魔界とは知らず、未だ見ぬ目的地に想いを馳せている事だろう。

「そう、ですか」

青葉の語調があからさまに暗くなる。

「あー、ダメダメ!今日は時間を大切に使う日にするっていったよね?」

「はい、すみません」

謝る必要までは無いと思ったが、この話をこれ以上膨らませる必要はないだろう
そう思った俺は、口から出かけた言葉を飲み込んだ。

「はい、手当て終わりました」

「うん、いつもありがと」

あ、こうやって話していれば痛みを感じなくて済むのか!
今度からそうすることにしよう!
・・・・今度から、ね
俺は脱いでいた服を着始める

「大樹様」

「ん?」

「あの言葉・・・・・まだ、頂けませんか?」

・・・・・・あの言葉。
青葉の言葉に、俺は袖を通そうとしていた手を止めた。
『す――――――』
正直、まだ迷ってる。
最初は、全てが終わったら伝えようと思ってた
でも今考えると、それは勝って初めて出来ることで
もし負けてしまったら、この想いは一生言えず生涯忘れてしまう事になる。
かといって、戦いを前に想いを打ち明けることで新たな疑問や雑念が紛れ込む可能性もある。
そう考えると、どちらにもメリットとデメリットがあって
一概にどっちが正しいとは言えなくなってしまうのだ。
でも・・・・
青葉の言葉で、決心がついた。

「青葉」

「はい」

互いの顔は見えない、逆にそれが緊張を煽る。
なぜか一度目に増して二度目はさらに不整脈。
どんどんどんどんどんどんどんどん!
誰かが俺の心臓をサンドバックの如く殴りつけてくるような感覚。
そんなに体中に血を送ってどうしたいんだよ、俺?!
俺は唇を開き、声帯を震わせた

「スキダ」

なんかカタコトーーーーーー!!
ごめーん、青葉。ごめーーーーーーん!!

「ふふ、緊張してらしたんですね」

「面目ない・・・」

恋愛経験ゼロの男ですんません。
てか、最初に夫婦になった人間ってすごいな!
筋書き無しで愛を囁くとか!

「私もです」

大切なモノを扱うような口調で

「私も、大樹様が大好きです」

俺の心にも、そっと、愛が据えられる。
とっても温かくて、一言じゃ言い表せないほどの満足感がそこにあった。

「やっと、両想いになれました」

「やっと?俺はほとんど一目惚れだったけどね」

なんて調子のいいことを言ってみたり。

「残念。わたしは発泡スチロールボックスの中にいた時からです」

「参りました」

わざとらしく土下座。
しかもまだ青葉の方を向いていないから、なんか礼拝みたいになっている。

「ふふふ・・・」

「はは・・・」
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