海神の襷

〜 海神の宮殿 〜


 宮殿の一間に一人。王座に座し、物思いにふける女性がいた。

 いつからだろうか・・・
 私の力は全盛期に比べ損なわれすぎた・・・

「時が来たのやも知れぬ・・・」

 女が「おい」と声をかけると壁一枚隔てた部屋の向こうから二匹のシー・ビショップが現れる。

「「お呼びでしょうか」」

 彼女たちは声を合わせ女の前に頭を垂れる。

「お前達をようやく地上へと向かわせるときが来た。・・・この意味がわかるな?」

「承知しております。」

 女の左に控えるシー・ビショップが淡々とした口調で答える。

「必ずやご子息をお守り致します。」

 それに続いて右に控えるシー・ビショップはもう一人とは真逆な抑揚のあるハキハキとした口調で女の問いかけに愚問とばかりに答える。

「うむ。お前達には期待しているぞ。さぁ行け!」

「「はっ!」」

 彼女たちは再度声を揃えると遙か上に見える小さな光のする方に向かって泳ぎだした。


 〜 地上 〜


 人ひとりいない海浜を波打ち際に沿って歩く青年。
 彼はそこから見えるはずのない自らの故郷を思い出しながら物思いにふける。

「母上・・・あなた様は今、ご健在でしょうか?」

 誰に言うわけでもなく呟く。

ーーーーーーと、

コポッコポプクッ

 水面に気泡が浮き上がる。
 青年はそれを見逃さず、気泡の浮く一点を見つめ続ける。

「何か・・・来る?」

 気泡が大きくなってきたかと思うと

ドッッパァァーーーーン

 激しい水飛沫が起こり反射的に腕で顔を覆い水がかかるのを回避する。
 しばらくすると水飛沫は収まった。
 それを確認し、青年はその原点を見つめる。
 そこにはシー・ビショップが2匹。彼に近づいてくる。

「海神の命により参りました。名はオルエと申します。」

 オルエと名乗るシー・ビショップは淡々とした口調でそう告げる。
 あまり表情を表に出さないタイプのようで、可愛いというより美しいという形容が相応しい。そんな顔立ちをしていた。

「私はミルエと申します、海神様よりこれを。」

 ミルエはオルエと違い抑揚のあるハキハキとした口調をしていて、その表情は溢れんばかりの元気さと温和さに満ちておりシー・ビショップのお手本のような可愛らしい顔立ちをしていた。
 青年はミルエから差し出された石版のようなものを受け取る。
 そこにはこう記されていた。


ーーーーー我が息子アギよ。

 お前が地上で生活し人間を理解すると言い宮殿を旅立ってから既に10年が経過した。この文を読んでいるということは達者なのだろうな。

 さて、今回文を書き送ったのは他でもない。王座の継承についてだ。

 私は近頃自分の魔力の衰えを強く感じるようになってきた。

 潮時・・・ということなのだろう。

 そこで近いうちに宮殿にて継承の儀式を行い、お前に王位を継承することにした。

 しかし急なこともありお前も戸惑いを隠せないことと思う。

 そこにこの石版を届けに来た双子のシー・ビショップがいるだろう。

 お前達にはしばしの猶予を与えようと思う。

 その間に地上で共に行動し良い信頼関係を築き上げ、お前は神として。彼女たちはお前の側近として。

 ふさわしいものになれることを願っている。

 お前達新世代を担う者達に大海原の加護と祝福があらんことをーーーーーー。


 私は一通り内容を読み終えると深い喪失感に見舞われた。

「あの偉大な母上が・・・衰退だって?」

 足に力が入らなくなり力なく膝から崩れ落ちた。
 声を出すのもやっとだ。
 
 私の尊敬し目標でもあった母。
 それが今自分の限界を悟り王位を私に譲ろうとして下さっている。
 
 譲り受けるべきなのか否か。
 
 答えはとうに出ていた。
 しかし私はその事実を受け入れたくないと、そう思っている。
 私はどうすれば・・・

「「アギ様。」」

 二人に名前を呼ばれると、すぐさま現実世界に回帰した。

「迷っている場合ではございません。」

「私たちには今やるべきことがある、そうですよね?」

 オルエの一喝とミルエの笑顔に支えられ私は再び立ち上がる。

やるべきこと・・・

「そうだ・・・私たちにはやるべき事がある。今その務めを全力で果たそう!共に。」

「はい。」「はいっ!」

 この人だったらやってくれる・・・
 二人はそんな安心感を抱くのだった。


 〜 地上 - 都市 - 〜


「ここが人間の築き上げた都市だ。伝統はないものの人間が短期間で爆発的に発展させ生活の便を良くした場所だ。今の地上界を理解する上で大いに助けになると思う。」

 「「へぇ〜」」と感嘆を漏らす二人。
 私の説明を聞きながらも二人はキョトンとした顔でキョロキ
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