第6節 誓い。そして約束-憂いの庭園-

まるで時が止まったかのように
獣はピクリとも動かない。
それを確認したリザールは、身を翻してソレから離れていく。
彼が深呼吸をすると、先程まで全身を覆っていた体毛がみるみるうちに消えていった。

「すまないレバンヌ。立ち止まるわけにはいかないんだ」


ーーーーーーーーーー

「おいっ!追放ってどういうことだよっ!」

「・・・すまない」

「すまないって・・・説明しろっ!」

「・・・」

「おいっ!」

「・・・俺は、普通の人間じゃない」

「な、・・・そりゃあ定期検査に引っかかるくらいだから異常に決まって」

「そういう意味じゃない」

「じゃあっ!」

「俺の中にもう”一匹”いるんだ」

「一匹・・・?」

「教会も詳細を発表していないが、お前にだけ話そう」

「・・・」

「俺は獣人族の末裔だ」

「!!」

「獣人族の中には獣が宿っている。俺もそうだ。教会側は獣の存在を恐れてその力を封印した。そして追放することによって完全に関係を絶つようだ。」

「・・・」

「俺は封印を解くため、この街を離れる・・・俺が戻るまで、フィリアを頼む」

「・・・」

「・・・」

「リザール!」

「・・・」

「最後に聞かせてくれ!・・・お前が今まで強かったのはその獣の力を使っていたからなのか?」

「・・・いや、努力だ」

「・・・」

リザール
お前は力を持ちながら、それを使おうとはしなかった。
だが俺にはわからなかった。
なぜ力を追い求めるものが力を出し惜しむのか・・・
俺が持っていれば存分に使っていただろう
俺に
俺に力があれば・・・

「力が欲しいのか?」

「・・・ああ」

「なら私と契約しないか?」

「契約?」

「お前にふさわしい力を私は知っている。それをお前にやろう、だから私に協力しろ」

「与えてくれるという証拠は?」

「これに署名すればすぐわかる」

「代償はそれだけか?」

「ふふふ・・・その用紙を見ろ。」

『契約者を裏切るような言動は死罪。世界がその存在を拒み、記憶すら存在を拒絶する』

「要するにあんたを裏切らなければ問題ないんだろ?」

「ああ、その通りだ」

「なら問題ない。契約しよう」

「ふふっ、交渉成立だな♪」

俺はあの時気付くべきだった。
自分が”奴”に利用されることを。
いや、既に手遅れか


今・・・俺に出来ることはなんだ?
・・・
そうだよな。あれしかないんだよな。


ーーーーーーーーーー

ムクゥゥ・・・

獣がリザールの背後で起きあがる。

「リザール様っ!うしろ!」

獣はリザールに向かって倒れ込む
しかしその様子を目の辺りにして尚リザールは動じない。

ズゥゥゥゥゥンンン

獣はリザールを避けて倒れた。

「・・・」

風が獣の全身を撫でる。
すると
体からどんどん体毛が剥がれていき、元の人型が露わになった。

「レバンヌ・・・」

「はっ!やっぱり敵わねぇよ、お前には」

「・・・」

「急いでるんだろ?」

「ああ」

真剣な表情でリザールを見つめるレバンヌ。

「『黄金律』。体の造りが完全な左右対称の人間の事を言うんだが、世界に一人しかいないその存在こそが・・・お前の妹フィリアなんだ。」

「!!」

「あの娘の体内を流れる血液には『バルシグラム』というものが含まれている。それを抽出し用いることで、ある特殊能力を得ることが出来るのだそうだ。詳しくは知らないが。」

「そうか・・・」

全てを言い終えるとレバンヌは顔を伏せる

「俺はもうお前に会うことはない。いや俺を覚えてすらいないだろう。」

「・・・」

「・・・早く行け、フィリアが待ってるんだろ?」

「・・・」

リザールは無言で頷くと背を向けて、大きな穴に向かって歩き始めた。
その後をアクラとビアニカが追う。
と、
リザールが立ち止まり振り返る。

「生きろ!・・・生きて、また会おう」

先程の言葉の意味をリザールが理解していない訳がない。
だが言わずにはいられない。
気遣いではない。誓いの言葉。

「・・・ああ、当たり前だっ!」

これが最後の言葉になるとしても。
果たせない約束だと分かっていても。
応えたかったのだ
好敵手である彼の最後の期待に。
最初で最後の好敵手として・・・

リザールと魔物娘二人は穴に飛び込み、レバンヌからは既に見えなくなっていた。

「終わったのか?」

背後から声がかかる

「ああ」

「ふふふ、なら次は私の番だ」

レバンヌが振り返るとそこには
彼の契約者が立っていた。

「一瞬で殺してやろうかと思ったがやめた。体力はありそうだしな・・・玩具にしてから殺してやる♪」

満面の笑みでそう言う。

「そいつは御免だなぁ。新しい約束が出来ちまったからよ」

「んふふ・・・約束
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