まるで時が止まったかのように
獣はピクリとも動かない。
それを確認したリザールは、身を翻してソレから離れていく。
彼が深呼吸をすると、先程まで全身を覆っていた体毛がみるみるうちに消えていった。
「すまないレバンヌ。立ち止まるわけにはいかないんだ」
ーーーーーーーーーー
「おいっ!追放ってどういうことだよっ!」
「・・・すまない」
「すまないって・・・説明しろっ!」
「・・・」
「おいっ!」
「・・・俺は、普通の人間じゃない」
「な、・・・そりゃあ定期検査に引っかかるくらいだから異常に決まって」
「そういう意味じゃない」
「じゃあっ!」
「俺の中にもう”一匹”いるんだ」
「一匹・・・?」
「教会も詳細を発表していないが、お前にだけ話そう」
「・・・」
「俺は獣人族の末裔だ」
「!!」
「獣人族の中には獣が宿っている。俺もそうだ。教会側は獣の存在を恐れてその力を封印した。そして追放することによって完全に関係を絶つようだ。」
「・・・」
「俺は封印を解くため、この街を離れる・・・俺が戻るまで、フィリアを頼む」
「・・・」
「・・・」
「リザール!」
「・・・」
「最後に聞かせてくれ!・・・お前が今まで強かったのはその獣の力を使っていたからなのか?」
「・・・いや、努力だ」
「・・・」
リザール
お前は力を持ちながら、それを使おうとはしなかった。
だが俺にはわからなかった。
なぜ力を追い求めるものが力を出し惜しむのか・・・
俺が持っていれば存分に使っていただろう
俺に
俺に力があれば・・・
「力が欲しいのか?」
「・・・ああ」
「なら私と契約しないか?」
「契約?」
「お前にふさわしい力を私は知っている。それをお前にやろう、だから私に協力しろ」
「与えてくれるという証拠は?」
「これに署名すればすぐわかる」
「代償はそれだけか?」
「ふふふ・・・その用紙を見ろ。」
『契約者を裏切るような言動は死罪。世界がその存在を拒み、記憶すら存在を拒絶する』
「要するにあんたを裏切らなければ問題ないんだろ?」
「ああ、その通りだ」
「なら問題ない。契約しよう」
「ふふっ、交渉成立だな♪」
俺はあの時気付くべきだった。
自分が”奴”に利用されることを。
いや、既に手遅れか
今
今・・・俺に出来ることはなんだ?
・・・
そうだよな。あれしかないんだよな。
ーーーーーーーーーー
ムクゥゥ・・・
獣がリザールの背後で起きあがる。
「リザール様っ!うしろ!」
獣はリザールに向かって倒れ込む
しかしその様子を目の辺りにして尚リザールは動じない。
ズゥゥゥゥゥンンン
獣はリザールを避けて倒れた。
「・・・」
風が獣の全身を撫でる。
すると
体からどんどん体毛が剥がれていき、元の人型が露わになった。
「レバンヌ・・・」
「はっ!やっぱり敵わねぇよ、お前には」
「・・・」
「急いでるんだろ?」
「ああ」
真剣な表情でリザールを見つめるレバンヌ。
「『黄金律』。体の造りが完全な左右対称の人間の事を言うんだが、世界に一人しかいないその存在こそが・・・お前の妹フィリアなんだ。」
「!!」
「あの娘の体内を流れる血液には『バルシグラム』というものが含まれている。それを抽出し用いることで、ある特殊能力を得ることが出来るのだそうだ。詳しくは知らないが。」
「そうか・・・」
全てを言い終えるとレバンヌは顔を伏せる
「俺はもうお前に会うことはない。いや俺を覚えてすらいないだろう。」
「・・・」
「・・・早く行け、フィリアが待ってるんだろ?」
「・・・」
リザールは無言で頷くと背を向けて、大きな穴に向かって歩き始めた。
その後をアクラとビアニカが追う。
と、
リザールが立ち止まり振り返る。
「生きろ!・・・生きて、また会おう」
先程の言葉の意味をリザールが理解していない訳がない。
だが言わずにはいられない。
気遣いではない。誓いの言葉。
「・・・ああ、当たり前だっ!」
これが最後の言葉になるとしても。
果たせない約束だと分かっていても。
応えたかったのだ
好敵手である彼の最後の期待に。
最初で最後の好敵手として・・・
リザールと魔物娘二人は穴に飛び込み、レバンヌからは既に見えなくなっていた。
「終わったのか?」
背後から声がかかる
「ああ」
「ふふふ、なら次は私の番だ」
レバンヌが振り返るとそこには
彼の契約者が立っていた。
「一瞬で殺してやろうかと思ったがやめた。体力はありそうだしな・・・玩具にしてから殺してやる♪」
満面の笑みでそう言う。
「そいつは御免だなぁ。新しい約束が出来ちまったからよ」
「んふふ・・・約束
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