「はいどうぞ!」
そういうと彼女は、割ったクッキーの大きい方を渡してきた
彼女は刑部狸のりんちゃん、僕のとなりの家の娘で、お友達
だからよく遊びに行くんだけど、りんちゃんはいつも僕のほうに多くお菓子を渡してくる
「ぼくのほうがおっきいよ?」
「うん、だってたくさんたべてほしいし!ほんとは全部あげたいけど、りょうくんはやさしいから、わたしにもたべてほしいでしょ?」
それなら、きちんと半分にしてほしいけど、彼女はいつも通りのことを言う
「おかえしはまだまだおわってないんだから、ちゃんとうけとってもらわないと!」
そういうと、彼女は嬉しそうにクッキーを頬張った
「ねえねえりょうくん!今年の誕生日は何欲しい?」
小学校の帰り道、彼女は僕に聞いてきた
もうこれで4度目、小学校に入ってからずっと彼女は僕にこうやって誕生日プレゼントに何が欲しいか聞いてくる
「さすがに悪いよ、いつも僕がもらってばっかりで、たまにはりんちゃんにプレゼントさせてよ!」
「だから毎年私の誕生日に、家に来てもらってるでしょ?」
確かに、彼女は毎年自分の誕生日会に自分を呼ぶ
「でも、それってプレゼントになるの?」
「もちろん!わたしの誕生日にりょうくんが来てくれるの、すっごく嬉しいんだから!」
それに
「私がお金持ちなのしってるでしょ?だから安心してほしいモノを言ってね!」
そう、彼女の父は大企業の社長なのだ、そして彼女自身も父の仕事を手伝ってお金をもらっているらしい、さすがは刑部狸というか…
「わかったよ、じゃあ今年はサッカーボールがほしいなぁ」
「まっかせて!チーム全員分プレゼントするからね!」
お金持ちというのはそういうものなのだろうか…小学生の僕にはよくわからなかった
「まだまだ受け取ってもらわないと!」
そしてそう彼女は笑った
「中学生にもなって彼女に奢ってもらうなんて悪いって…」
なんとか彼女を説得しようとするが全く聞く耳を持ってもらえない
「だめだって、それこそりょうくんに払わせるなんて刑部狸の名折れだってぇ」
近づいてきた彼女の顔と匂いに委縮してしまいまたしても奢らせてしまった
小学校まではそれほど気にしなかったが、さすがに中学生ともなると、何をするにしても彼女がお金を払うことに抵抗感を感じ始めた
しかし今のように、彼女の奢りに異論を出すと魔物の魅力で黙らされてしまうのだ
「そういうもんなの、刑部狸って魔物は?」
「そうよ、もらった分の対価はちゃぁんと払わなきゃ!」
もらった分?僕、彼女に何か渡したっけ……
どうにか思い出そうとするが…
「ほらりょうくん!次はどこ行く?せっかくの休みなんだしたくさん遊ばなきゃ!」
彼女の声を聞き、考えるのをやめて一緒に歩き始めた
「なぁりん、どうして俺にこんなにいろんなことをしてくれるんだ?」
俺はとりんは学校の屋上にいた、俺が彼女を呼んだわけだがその理由はこの10年以上続く関係について聞きたかったからだ
いままでも魔物娘のカップルに会ったことはあったが、刑部狸の彼女を持った人にはあったことが無かった
だが高校生となり、同じクラスに自分のように刑部狸の彼女を持つ同級生に会った
そこで、彼に聞いた話と自分の中の刑部狸像が一致せず気になったために呼び出したわけだ
「高橋に聞いたんだよ、刑部狸は金にすごく細かくて、デートの時はいつも割り勘してるって、でもどうしてりんは、何するにしても奢るししょっちゅうプレゼント渡してくるし」
小学生までは誕生日プレゼントだけだったが、今となっては何かの記念日と言ってはいろいろと渡してくるようになった。
そういうときのプレゼントはだいたい消耗品でなんとか部屋が埋もれずに済んでいるが、もし食べ物や文房具のように使ったり減らせないものだったらとっくに家が潰れていたかもしれない
「?いつも言ってるじゃない、もらったもののお返しだって」
そう彼女は微笑んだ
「それなんだけど、俺って何かりんに上げたっけ?」
そう、彼の記憶ではいつも自分がもらう側、もちろん自分も彼女にプレゼントを渡したことはあるが、どうしても俺が彼女にもらい始めた後の記憶ばかりだ
「え!りょうくん忘れてたの!?こんなに素敵なものをプレゼントしてくれたのに!」
そういうと彼女はカバンの中からたんぽぽの押し花で作ったしおりを出してきた
それは、彼自身まったく覚えていなかった些細なもの
幼少期に公園で一緒に遊んでいた時、彼女が明日誕生日だということを教えてきた
それを聞いて、彼がその辺から拾ってきた、何の変哲もない一輪のたんぽぽ
「たしかに、特別なものじゃないけど、私はりょうくんが私を想ってこのたんぽぽをくれたのがとっても嬉しかったの、大好きな人が自分のためにくれたもの…このプレゼントには価値がつけられないほどの価値がある、だから
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想