私は自宅への帰路を早足で歩いていた。
別になにか特別なことがあるわけではない、いつも早足で帰っている。
私が吸い寄せられるように、引っ張られるように家へ向かってる理由は一つ。
愛しい奥さん、ナイトメアのうつつちゃんが家で夕食を作って待っているからだ。
それ以上でもそれ以下でもない、ただその一つの事実が運動嫌いで今までずっとだらだらと歩きながら帰っていた私を急かしていた。
どんな食事が待っているのか、どんな姿で待っているのか、そして、今夜はどんな夢を見るのか、それを考えていると、気づけばもう自宅のマンションまで来ていた。
そのまま階段を上がろうとしたが、視界に入ってきた『新作プリン』という単語に脚を止める。
(……せっかくならうつつちゃんと食べるか)
私の住むマンションは一階にコンビニがあるのだが、どうやらそこに新しい商品が入荷したようだ。
私は手早く目的のプリンを2つ取るとさっさと会計を済ませ、階段を駆け上がった。
「ただいま〜」
玄関のドアを開け、声をかけるとすぐさまトトトトッと蹄の音が聞こえてくる。
ガチャリとリビングの扉が開くと、そのまま黒い巨体が突っ込んでくる。
「……おかえりなさいっ、お兄さん!」
むぎゅうと私に飛びついてくると、エプロン姿のうつつちゃんの柔らかな双丘が胸板に当たる。
毎日帰ってくるたびにしていることだが、やはりこの感触は何度感じてもドキドキしてしまう。
そしてそれ以上に、家で自分を待っててくれる人が居るというのは嬉しくてしょうがないもので、私も両腕で抱きしめる。
「んんん〜……お兄さんの匂い……
#9829;」
うつつちゃんは嬉しそうに脚をしきりに動かしながら尻尾を振っていて、うつつちゃんも私が帰ってくることを楽しみにしていたと教えてくれる。
暫く会えなかった寂しさを埋めるように抱きしめ合っていたが、私は自分が持っていたものを思い出した。
「あっそうそう、今日はね〜美味しいものを買ってきたよ」
「おいしいもの……ですか?」
私は抱き着かれたまま持っていたビニール袋を持ち上げる。
「新作のプリンだってさ、ご飯の後で一緒に食べよ?」
「はいっ!」
うつつちゃんはキラキラした瞳で袋を見ると、嬉しそうに笑った。
夕食のカレーを食べ終わった後、私とうつつちゃんは一緒に並んでプリンを食べていた。
「はむ……ん、このプリン美味しいです!」
プリンをスプーンで小さく掬いながら、夢中でぱくぱくと食べる姿を見てるとこっちまで幸せな気持ちになる。
私もプリンを食べ始めるがなかなか美味しい。
(皆がこの美味しさに気づいて品薄になる前にもう一回買っておこうかな……)
そんなことを考えながら、うつつちゃんとのおやつタイムを楽しむ。
すると、うつつちゃんがプリンを食べながらもちらちらとこちらに視線を向けてくるのに気づいた。
こういう時は何か言いたいが恥ずかしい時だ。
なので私の方から切り出した。
「どうかしたの?」
「え!?……ええっとですね……その、今夜ちょっとシたいことがあって……夢の中の方なんですけど……いい、ですか……?」
(珍しい!)
内気なうつつちゃんが自分からシたいことを言うなんてなかなか無い、私にはそれに乗る選択肢しかなかった。
「もちろんだよ、どんなことなのか聞いてもいい?」
「えっと……ちょっといつもと違う服を使いたいんです。アニーさんが、それを使ってえっちするととても盛り上がるって言ってて」
ここのマンションに住むエンジェルのアニーちゃんとうつつちゃんは同じく旦那さんを持つ魔物娘同士ということでよく話をしてたりする。
更には、2人で夫婦性活や旦那について惚気あっているらしい。
この前なんて玄関前で会ったらとても早口でうつつちゃんが私の事を惚気ていたことを言うだけ言って自宅に帰って行ったのだ。
職場につく前に顔の赤みが消えて本当に良かったと思う。ただ、恥ずかしさ以上に嬉しかったのが本音だったりもするのだ。
「えへへ、これ以上はヒミツ……夢でのお楽しみですっ」
「それはそれは、楽しみだなぁ」
私は夜への期待をさらに膨らませながらうつつちゃんの頭を撫でた。
「大丈夫?熱くない?」
「はい、大丈夫です」
シャワーでしっかりうつつちゃんの全身にお湯をかける。
話によると魔物は魔力によって体は綺麗に保護されてるらしいが、それはそうと体を洗うのは好きらしいのでこうやって彼女の手の届かない馬体を毎晩洗っている。
「んっ……ふあぁ……気持ちいいです……」
ブラシでゴシゴシとうつつちゃんの馬体をムラの無いように洗う。
綺麗な馬体……だと思う。残念ながら私に馬の知識は無いのでこれは馬的に良いのかどうか判らないが、この漆黒のボディは素直に素敵だと感じる。
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