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最近、二つの悪夢を見る。
怖くない悪夢と、怖い悪夢。
家族に拒絶される夢は怖くない、突き飛ばされたり冷たい目で見られても平気だ。
それは嘘でも強がりでもなくて、本当はとても優しい人達だと知っているから、それが現実ではないとすぐにわかる。
不安が生み出した幻でしかないと思える。
現実じゃないから怖くない。
だからこそ、夢は現実に近ければ近いほど怖いものになる。
家族を自分のせいで悲しませてしまう夢がそうだ。とても現実的で、きっと実際にそうなってしまうだろうと知っている。
これはいつか未来に起こる現実なのだと受け止めてしまう。
だからきっと受け止めきれなかった分が、目の端からこぼれてこぼれて、止まらないのだろう。
そうでなければ、この身体からこんなに液体が出てくる筈はない。
ああ、嫌だ。
また彼に迷惑そうな顔をされてしまう。
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とりあえず山田墓丸(やまだ はかまる)と呼んでほしい、僕はしがない高卒アルバイターだ。一応酒を飲んでも捕まらない年齢ではある。
墓丸は本名じゃなくてあだ名だが、少なくともこの物語の中で僕の本名が呼ばれる事は稀だろうから別にそこは覚えなくても問題ない。
え?なんで墓丸だって?なんか中学の頃に教科書に骨のイラストばっか描いてたらそういうあだ名で呼ばれたから。
「ぐすっ、ん、ぐ、ぅええええええ…っ……はか、はかまる…はかまるぅ……っ!」
で、さっきから僕の腕の中でえぐえぐ泣きじゃくってる白いモンスターが僕の元親友、川口無久郎(かわぐち むくろう)。
名前からしてもちろん男だ、生きていた頃は。
少年期特有の高い声にも似たソプラノを震わせ、腰まで伸びた銀糸のようなセミロングの髪を揺らす人型の異形は、胸部こそおっぱいなどと呼ぶにはやや貧し…慎ましやかではあるが。
しかしその髪と同じ銀色の長い睫毛や、片腕で簡単に包み込めてしまう細い肩、きゅっとくびれた腰は、その身体が間違いなく女性である事を主張している。
ただし、彼女の容姿を説明するにはこれでは不十分だ、むしろ詐欺に等しい。
瞳の色は血のような紅。
そこに全ての血を使い切ったと言わんばかりに肌は血色を許さない白。
顔の片側はガイコツのような仮面で覆われており、首元も骨のような器官で覆われている。
背中からも白い裸体を包み込むように肋骨のような鋭利な器官が回り込んでいるが、露出度を下げるという観点からすると明らかに力不足で白い肌がそりゃもう見えまくってる。というかむしろ裸ニーソや裸エプロンに近い、裸ボーンとでも称するべき謎の趣があって、全裸よりもよほど目の保養になる。
そして極め付けに、その四肢がだいたい上は肩のあたりから下は腿のあたりから、剥き出しの骨そのものなのだ。しかも関節からはちらちらと鬼火のような青い燐光が漏れ出ている。恐らく筋肉無しで骨の手足を動かすための魔力か何かだろう。
それらの特徴は彼女が女の子であると同時に、紛れもなく異形の存在でもあるのだと語っていた。
このスケルトンという魔物娘は街中ではそうそうお目にかかれないタイプだと思う。
魔物娘という一昔前までファンタジーの産物だったものがいつのまにか日常に浸透し、異世界のゲートがどうとか、魔物娘は実在した!とか、テレビで特集が組まれても大抵の人は「いや知ってますけどねー」で聞き流すし、僕も「まーうちのバイト先にもいるくらいだからなー」って感じだった。
魔物娘という条理を超えた存在が世に認知されたところで、戦争が無くなったわけでもなければ貧困が解決したわけでもないし、テレビでは毎月のように不登校や自殺のニュースが流れ、それまで社会に溢れていた不条理は依然として世界に在り続けている。
なべて世はこともなし、それが僕を取り巻く現実だったはずなんだけど、なんの因果か今は魔物娘になってしまった元親友と一つ屋根の下で暮らしている。
他人事なら羨ましい限りのことだし、僕だって男友達がいれば自慢したかもしれないが、でもよりにもよってなぜスケルトンなのか。
なんせこいつらは人間の骨に淫魔の魔力が宿ると生まれるというのだ、怖い。リアルに死人が蘇るっていうのがまず普通に怖すぎる。
つまりこいつは川口家の墓の下に埋まった骨壷から、こっそりと抜け出してきた事になるわけだが、ひっくり返された墓とか骨壷が今どうなっているのか考えるだに恐ろしい。警察沙汰になっていないといいのだけど。
で、ひょんなことから色白銀髪美少女アンデッドとして蘇ったかつての親友は、なんやかんやで僕の家に居候を決め込んでいる。
それは別にいいのだがこの居候、ときどき夜中に飛び起きて騒ぎ出し僕の安眠を妨害するのだ。ちょうど今のように。
「おーいむくろ、いいかげん泣き止めよ。つーか離れろ、僕のTシャツ
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